「結局、置き去りにされてしまうのか」
戦後、ロシアが不法占拠を続ける北方領土の元島民団体「千島歯舞諸島居住者連盟」根室支部長の宮谷内亮一さん(76)は、無力感にさいなまれた。
6月29日、大阪で行われた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に合わせて開かれた日露首脳会談。「北方領土返還交渉に動きがあるかもしれない」と両首脳の共同記者会見のインターネット中継を見守っていたが、安倍晋三首相からもプーチン大統領からも、進展をうかがわせる言葉はなかった。
昭和、平成と幾度となく行われ、失敗してきた返還交渉。平成も終わり近くになって安倍首相が「新しいアプローチ」を打ち出し、希望的観測も躍るようになっていたが、令和の幕開けとともに、またしても宮谷内さんらの希望は裏切られた。
日本人の北方領土への関心は明らかに薄まっている。政府が昨年12月に公表した世論調査では、北方領土について「聞いたことはあるが現状までは知らない」「全く聞いたことがない」と答えた人が32・3%。18~29歳は43・8%に上る。「参院選では領土や外交の問題もしっかり議題に掲げてほしい」。宮谷内さんの焦りは募る。しかし、どうすれば故郷を取り戻せるのか。その答えは見えてこない。
戦後の日本は日米安保体制によって守られてきた。米国は日本の防衛義務を負い、日本の金銭的負担と基地提供で「双務性」が担保される。だが、こうした日米安保条約の要諦を揺るがす発言が、米国の大統領の口から飛び出した。
「不公平だ」「一方的だ」。トランプ大統領はG20の前後、メディア出演や記者会見の場で安保条約を批判した。「米国ファースト」がトランプ政権の大方針ゆえ、いずれ日本もさらなる安全保障上の責任を求められるのは想像に難くない。それでもインパクトは絶大だった。
トランプ氏は条約について「破棄する考えは全くない」とも述べ、日本側を安心させはしたものの、日本の平和は同盟国頼りだという現実を、改めて目の当たりにすることになった。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)の防衛も、やはり米国抜きには考えられない。日中関係の悪化と中国公船の周辺海域侵入で、日本中が不安におののいていた平成26年。来日したオバマ米大統領(当時)が安保条約の尖閣適用を明言すると、ようやく政府にも安堵(あんど)のムードが漂った。
尖閣では今もなお、日中でギリギリの攻防が続いている。今年6月には64日連続で中国公船が確認され、24年9月の国有化以降で連続日数が最長を更新した。豊かな漁場は、中国公船と日本の海上保安庁が対峙(たいじ)する「厳戒の海」と化している。
石垣市の中山義隆市長はいう。「状況は厳しさを増しているのだが、全国的には話題になっていない。トランプ氏の発言は安保を真剣に議論する契機にはなる」。
「普通の国」には自国の領土を守る軍隊がある。しかし、日本の自衛隊は、戦力不保持をうたった憲法9条があるために、軍隊ではない「実力組織」というあいまいな存在に位置づけられ、憲法学界では「違憲」ともいわれてきた。
安倍首相は、憲法改正で9条に自衛隊を明記すると訴え、参院選でも大きな争点に掲げる。「護憲か改憲か」という古びた二元論に風穴を開ける狙いも透けるが、票に結びつきにくいテーマだけに等閑視されがちだ。野党の一部は議論すら忌避している。
「自衛隊を憲法に位置づけることすらできない日本人は、自分で自分の国を守る気がないのも同然だ」。9条明記を主張してきた評論家の潮匡人氏は、こう指摘する。
平成に入り、日本人の関心が急激に高まった竹島(島根県隠岐の島町)の領有権問題も、最近では話題にならない。
戦後間もない時期から韓国が不法占拠を続ける竹島については、地元の島根県が平成17年に「竹島の日」条例を制定、毎年式典を開くなどして問題提起の機運を高めた。24年、韓国の李明博氏が現職大統領として初上陸した挑発的行為で、日本人の危機意識はさらに高まった。
だが、いつしかそれも静かになり、令和初の国政選挙では声高に訴える候補は目立たない。全国の有志で作る「県土・竹島を守る会」の梶谷萬里子事務局長(72)は「政治が領土問題をあえて避け、逃げている」と話す。
日本の領土をどう守るのか、どうやって取り戻すか、それを考えるのは誰の責務なのか。惰眠をむさぼっていられるほど、現在の国際情勢は甘くない。(中村昌史)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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