国内初の「内密出産」に踏み切る熊本市の慈恵病院。匿名での出産を望む女性の意向と赤ちゃんの安全を最優先した上での判断だったと説明する院長の口ぶりには、強い覚悟がにじんだ。違法性を問われないか、赤ちゃんの戸籍をどう作るか、出自をどう伝えるのか――。今後の手続きには様々な壁が待ち受ける。
4日朝、病院の一室で開かれた記者会見。内密出産に踏み切る理由を問われた蓮田健院長は「赤ちゃんの遺棄や殺人をなくしたいというのが目標。そもそもの目的に立ち返って、社会の皆さんにもご理解頂きたい」と訴えた。
病院は14年前、日本で初めて「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を設置した。親が育てられない赤ちゃんを匿名で預かる仕組みだが、蓮田院長は「ゆりかごでは、自宅で一人で出産するケースを手当てできない残念な思いがあった。内密出産は病院の中で無事に出産し、保護できる」と語り、母子の安全確保の観点から「内密出産は素晴らしいと私は思っている」と言い切った。
蓮田院長は昨年から赤ちゃんの殺人や遺棄の裁判に関わり、死に至る状況や母親の置かれた厳しい環境を目の当たりにしてきた。内密出産について「安易な育児放棄を助長するという批判はあるかもしれないが、まずは赤ちゃんには罪も責任もないという所から始めなければ」とし、安全な出生と保護を最優先すべきだとの考えを繰り返した。
女性は病院に対し、「特別養子縁組の意向は変わらない」と説明。自らインターネットで調べ、「自分が育てるよりも、養親が育てた方が幸せになる」と決断の理由を伝えたという。
匿名での出産にこだわった理由について、蓮田真琴新生児相談室長は「親による過干渉で支配されているような感じだった」と説明。「中絶という選択肢もあったと言われると思うが、妊娠したと(親に)伝えることができなかった」として、女性の置かれた状況に理解を示した。
内密出産は、女性が病院の担当者だけに身元を明かし、後に子どもが望めば出自を知ることができる仕組みで、女性は「18歳もしくは20歳くらいで開示したい」との意向を示したという。蓮田院長は「大事なことはお母さんとつながり続けること。赤ちゃんが大きくなって、いつ何を希望されるのかまだ分からない」として、女性との関係を継続する考えを示した。
病院は月内にも出生届を出す方針だが、課題は山積みだ。蓮田院長は「内密出産は試行錯誤の状態だが、立ち止まるわけにはいかない。発生する問題を一つ一つ解決していくしかない」と表情を引き締める。
戸籍法は、親の名前を記さずに出生届を出すケースを想定していない。内密出産では、病院の担当者が母親の身元情報を把握しているのが前提で、院長が名前を「空欄」のまま出生届を出した場合、刑法の公正証書原本不実記載罪に当たるおそれがないか法務局に照会している。
また、父母が出生届を出さない場合、出産に立ち会った医師が出すことを求めるが、出さなくても罰則を科されるとは考えにくい。それでも、蓮田院長は「赤ちゃんを無戸籍状態にするということで、私も含めて社会が見放したということになる。私の良心からもそれはない」と断言し、母親を匿名にしたまま出生届の提出に踏み切る考えだ。
母親名が無記名の出生届が出されれば、熊本市が受理して戸籍を作るかが次の課題となる。病院は親が分からない「棄児」の場合に準じて赤ちゃん単独の戸籍を作ることを想定するが、行政は前例がない中で判断を迫られることになる。
女性は赤ちゃんが18~20…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル