見渡す限り、ヘビだらけ。毒蛇温室にズラリと並んだケースの中で、毒蛇たちがうごめく。鮮やかな緑色をしたコブラ科の「トウブグリーンマンバ」が細長い体をくねらせる。猛毒というが、案外可愛らしい顔をしている。そう思っていたら、11年前に飼い主をかんで、警視庁に押収されたヘビだという……。
群馬県太田市藪塚町にある、日本で唯一のヘビ専門研究機関「ジャパン・スネークセンター」。約40種、1700匹のヘビが飼育されている。センターは一般財団法人で、正式名称は「日本蛇族学術研究所」。やぶ塚温泉郷に1965年、開園した。採毒室や資料館、野外飼育場などもあり、ヘビの生態を研究・展示する傍ら、毒蛇の抗毒素(血清)を作るための毒の採取もしている。主任研究員の堺淳さん(64)は「春になると、ヘビにかまれた患者の診察に困った休日当番医や、病院からの相談電話もありますよ」と話す。許可なく飼われていて警察に押収されたヘビの引き取り依頼も、後を絶たないという。
無毒の大蛇「ボアコンストリクター」が、熱帯蛇類温室で出迎えてくれた。比較的穏やかな性格というが、間近で見ると大迫力。日曜と祝日には肩に巻いて記念撮影ができる。幼少期にはクモを素手でつかみ、トカゲやアオダイショウを追いかけ回していた記者(24)もさすがに少し気後れしたが、なんとか肩に載せてもらった。体長約170センチ、体重は4キロほど。ずっしりとやわらかく、肌はつるつる。ヘビに対してなるべく接地面を多くしてあげるのが、安定して持つコツという。大きな体とつぶらな瞳の「ギャップ萌(も)え」にやられそうになった。
その直後、「ヘビ料理」という看板が目に入る。可愛がったばかりだが、ここまで来て食べないわけにはいかない。
店を1人で切り盛りする料理人の早田義昭さん(71)は、ヘビを調理して51年という大ベテランだ。「毎日マムシ酒を飲んでるから元気だね。病院には行ったことないよ」と笑う。
冬眠前で栄養をたっぷり蓄えているというシマヘビを、勧められるがままに注文。ちなみにマムシは、子持ちの夏が一番おいしいのだという。
ネギと一緒に塩でさっと炒めたシマヘビは、鶏肉のようなさっぱりとした味わい。筋肉質で「ムチムチ」と「コリコリ」の間のような食感だ。レバーもほとんど臭みがなく、塩味によく合っていた。骨の素揚げはウナギの骨のお菓子のようで、ビールが欲しくなる。冬場は店を閉めるとのことで、ぎりぎり取材が間に合ってホッとした。
見て、触って、食べて、全身でヘビを感じられる日本で唯一の施設。巳(み)年の前年の年末には、年賀状の写真を撮りに来る人も多いのだとか。来年は「巳(へび)」に食われる「子(ねずみ)」年だが、ヘビ好きは一度、訪れてみては。(松田果穂)
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〈ジャパン・スネークセンター〉 北関東道太田藪塚インターチェンジ(IC)、太田桐生ICからそれぞれ車で約15分。東武桐生線藪塚駅から徒歩約15分。午前9時~午後5時(11月~翌年2月は午後4時半)、中学生以上1千円、小学生以下500円。金曜休館。ハブの採毒実験やヘビのお食事タイム、ふれあいなどのイベントも。マムシなどのヘビ料理が食べられる食堂は、12月~翌年3月以外の日曜・祝日のみ営業。問い合わせは(0277・78・5193)へ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル