新型コロナウイルスに感染した人との接触を知らせるスマートフォンのアプリ「COCOA(ココア)」が昨年11月、停止した。なぜ、日本では利用が広がらなかったのか。情報通信政策やデジタルエコノミーに詳しい早稲田大学の三友仁志教授に聞いた。
――新型コロナウイルス接触確認アプリ「ココア」は失敗だったのでしょうか。
「成功か失敗か、ひとことでは言いにくいですね。国が最初に作ったアプリで、手探りの部分もあったはずです。初めてのことで、しかも短期間のものとしては、失敗とまでは言えないのではないでしょうか。しかし、アプリが十分な効果を持ったかという点では、その役割は非常に限定的で、成功とは言えません。課題は、アプリの普及が十分ではなかったということに尽きます」
――なぜ、普及しなかったのでしょう。
「利用者、非利用者を対象に調査をしました。もちろんアプリへの不信感や新型コロナについての情報が少なかったということも、利用が広がらなかった理由としてありますが、それだけでなく、アプリの役割について、政府の説明が十分ではなかったことが大きいと思います。提供側の思いと、国民の期待とが合致しなかった。これには、当時の政権への信頼感が低かったことも影響したかもしれません」
「例えば、インストールしない理由を尋ねた質問では、『政府に対する信頼がない』が44・5%ありました。『アプリに対する信頼がない』69%、『強制力がない』45・6%に次いで高いものでした」
「また、アプリをインストールするかどうか判断するのは個人です。自分にとって、感染の源となるような人との接触の有無を知りたいわけです。アプリから的確な情報を提供してもらえることを期待します。しかし、アプリからの情報は非常に限定的でした。アプリをインストールして、国民一人ひとりにどんなメリットがあるのか。その説明と理解が不足していました」
「個人が知りたいのは、いつ、どこ、誰、の三つです。しかし、アプリから得られる濃厚接触の情報は、これらが非常にあいまいにしか伝えられませんでした。接触したのが『誰』かわからない。『いつ』『どこ』についても、24時間の範囲ぐらいしかわからない。それでは対策の取りようもないし、『もしかしたら、あの時か』と考えようもない。どうにもならないわけです」
「それでも、このアプリがなぜ必要なのかということを、政府は国民に周知しなければいけませんでした。そのとき、『国民の6割が使えば、感染をコントロールできる』というような社会的な効用だけを訴えても、一人ひとりの個人を動かすには至りません」
「人には正義感もありますし、利他的な行動を取ることもします。身近な他人に感染させないために、あるいは、家族を守れるかもしれない。そうした意味でアプリが役に立つという言い方はできたのではないでしょうか。しかし、例えば、陽性者にとって陽性登録はまったくの利他的行動ですが、全陽性者の2~3%しか登録がありませんでした」
COCOAの利用がどうして広がらなかったのか。その理由を探っていくと、日本のDXの課題も見えてきます。後半で詳しく聞きました。
「経済学の言葉で『便益』と言いますが、そうした便益を自分自身の便益として実感させることができれば、国民は、もっと協力的になったのではないかと思います」
――しかし、感染者のプライ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル