国葬じゃなかった? 後継者争いのアピール? 専門家2人どう見た

 開催をめぐり世論が二分される中、安倍晋三元首相の国葬が行われた。国葬を研究する識者2人の目にどう映ったのか。

 27日は、日本武道館近くの一般向けの献花台には、2万人以上が訪れた。

 一方、反対する集会が各地で開かれ、会場周辺でデモ行進があった。

 「国民が分断している状況が目に見えるような形で表現されたのは、日本の国葬の歴史では初めてでした。国葬は本来、国民を一つにまとめようとする性格を持っているのに、逆に分断を招いてしまいました」

 日本近代史が専攻の中央大教授、宮間純一さん(39)は指摘する。

 著書「国葬の成立」は、明治期の成立過程をつづった。

 「本来の国葬は、国全体で弔意を示さないと成立しない。今回のは国葬じゃなかったと思います」

 政府は官公庁や学校を休みにせず、地方自治体などに弔意表明を求めなかった。黙禱(もくとう)をするかどうかの判断は国民に委ねられた。

 広く国民や企業にまで協力を呼びかけた、55年前の吉田茂元首相の国葬のときとは大きく異なる。

 「政府は判断の責任を負いたくないから、あいまいにした。その結果、国葬の体裁をなさなくなった。国民に丸投げ状態で、踏み絵を踏まされるような自己責任の催しとなりました」

 一方で、宮間さんはこうも感じたという。

 「『一つの価値観を押し付けないでくれ』という考えを持つ人がたくさん出てきた。自由主義が尊重されている健全な社会だということを皮肉にもあらわした。全体主義の国家や戦前の日本のような天皇制国家だと国葬は機能しますが、今の日本で、ただ対立を生んだだけのイベントでした」

   ◇

 国葬研究で博士号を持つ、上智福岡中高教諭の前田修輔さん(32)は「国葬が鏡になって、今の日本を映し出した」とみる。

 「社会の分断を招いたともいわれる安倍政治の集大成の日が、最後まで賛成、反対が分かれていたのは象徴的でした」

 「また、女性活躍を強く訴えてきましたが、映像を見るかぎり、国葬への参列者は男性が多く、献花の係員は女性。女性が置かれている状況を映しているようにも見えました」

 前田さんは論文「戦後日本の公葬」の中で、国葬が批判を浴び、「落としどころとして」内閣と自民党との合同葬に変容していく様を伝えた。

 しかし今回、よみがえった国葬。

 前田さんは、その効果をこう分析する。

 「対象となる政治家の系譜を肯定し、時の政権の正統性を主張することにつながる。そして残された政治家にとって、政治的な意味合いを持つ」

 約8分間流された、安倍元首相の生前の映像。

 続く追悼の辞で、岸田文雄首相は「あなたが敷いた土台のうえに」と語った。

 菅義偉前首相は、安倍元首相の再決起を促した焼き鳥屋でのやりとりを明かし、「生涯最大の達成」と誇った。

 「正統な後継者であることを訴え、自らの立ち位置を強固にする。そんなアピールの場にもなっていたように見えました。『国葬になったすごい人』と、安倍元首相の功績が補強される式典でもあった。後々に影響を及ぼすような出来事だったと思います」(高井里佳子、矢島大輔)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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