生きよ堕(お)ちよ――。魂の叫びのごとく朗々と、歌人の福島泰樹さん(80)が坂口安吾(1906~55)の『堕落論』を吟じた。永畑雅人さん(66)の鍵盤演奏に乗せた「絶叫朗読」だ。
世界で活躍する両人の公演は、5月20日に新潟県十日町市の大棟山美術博物館で催された「坂口安吾まつり」の場。同館は、ひなびた風情がどこか懐かしい松之山温泉のそばにある。
「信越国境を越えてまもない山のどん底に、松之山温泉というものがある」(『逃げたい心』)
新潟市出身の無頼派作家はこの地が好きで、若い頃によく訪れた。同館は、安吾を可愛がった姉の嫁ぎ先で鎌倉時代から続くという名士、村山家の屋敷だった。家人らとの交流は安吾に安らぎを与え、『黒谷村』『不連続殺人事件』など松之山をモチーフにした作品が生み出された。
安吾が46歳の時の一粒種で…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル