埋まるバス通り、突然の轟音…あの消防隊員は何を見た

釆沢嘉高

 静岡県熱海市伊豆山(いずさん)の土石流で、住民の通報を受けて最初に現場付近へ到着した消防隊員2人が10日、当時の状況を報道陣に語った。あの日、日本中に拡散したSNSの動画の片隅に映っていた隊員だ。

 市消防署の杉野巧・消防司令(48)と上田洋・消防司令補(41)は、3日午前10時半ごろ「向かいの家が跡形もなく流され土砂で埋まっている」との通報を受け、同僚らとポンプ車など4台に分乗し計13人で同市伊豆山地区へ急行した。

 現場に通じるバス通りはすでに土砂で埋まっており、通報現場へ到着することはできなかった。

 ただ、その時点で大きな土石流は発生しておらず、本部と連絡を取って別ルートを検討。しかし、その数分後、突然「バーン」という大きな音が発生。この時点で、杉野さんは異常事態に気づいたという。

 「土砂がゆっくり動き出したことにしかわからなかった。ギリギリまで反応することができず、必死に退去した」

 近くにいた上田さんは、「ゴー」という大きな地鳴りを感じ、土石流の接近に気づいたという。

 腐った土のような臭いがしており、見ると車が斜面を下ってくるようなスピードで土砂がしぶきをあげて迫っていた。大声で周囲に「直ちに退避してくださいっ」と叫びながら走って退去した。

 「巻き込まれたら間違いなく命を落とすと思った」

 土石流は隊員らがいた場所をかすめるように下っていったため、隊員らは全員無事だった。その様子は近くの高い場所にいた人が動画で撮影し、SNSにアップ。ニュースなどで紹介されたほか、拡散した。2人ともその映像を見て初めて、周囲の状況がわかったという。

 上田さんは「とにかく無我夢中だったので体は動いたが、あとから映像を見ていかに自分がおそろしい現場にいたのか再確認した。(土石流は)繰り返し何波も押し寄せることを、隊員や住民に伝えていきたい」と話した。(釆沢嘉高)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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