「個展を開くためのお金がないんです。貸してくれませんか」
岡山県内の男性は、人形作家の女性からそう頼まれ、お金を渡した。いまから8年ほど前のことだ。
女性は「生き人形」と呼ばれるリアルな作風で知られ、各地で個展を開いていた。作品が有名ミュージシャンの活動に使われたこともあった。
借用書の数は増えていき、やがては数千万円にまで膨れたのに、全く返金されなかった。
「だまされた」。被害者は自分だけではなかった。女性は逮捕され、2019年に岡山地裁で懲役刑の実刑判決を受けて刑務所に入った。
男性は刑事事件の対象になった2千万円を取り返すために民事裁判を起こし、女性に支払いを命じる判決が確定した。
ところが、女性の手元にはほとんど財産がなかった。お金は1円も返されなかった。
思いついた奇策
このまま泣き寝入りはできない。そう考えた男性と弁護士は、裁判所に「差し押さえ」の申し立てをした。
狙いは「作業報奨金」だった。
懲役刑の受刑者は、刑務所で木工、印刷、洋裁などの作業をして「作業報奨金」を受け取る。
それを取り立てようという奇策だった。
記事の後半では、裁判所の判断と、専門家のインタビューを紹介します。浮かんできたのは、「犯罪被害の回復」と「加害者の更生」との間にある深い溝でした。
作業報奨金は原則、刑務所か…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル