今年2月、「音楽業界には社会や政治に声を上げる人が少なく、危機感を抱いた」という投稿が、朝日新聞の「声」欄に掲載された。書いたのは、国内外でDJとして活躍する沖野修也さん(56)=大津市。なぜ、そうなのか。インタビューでは、3月に亡くなった坂本龍一さんとのかかわりも語ってくれた。(聞き手・武部真明)
平和だからこそ踊って楽しめる
DJ 沖野 修也
(滋賀県 55)
僕はDJという仕事をしています。左右のレコードを交互にかけて人を踊らせる音楽家です。音楽業界には社会や政治に声を上げる人が少なく、危機感を抱き投書しました。
僕には、中国にも韓国にも台湾にもロシアにも友達がいます。それぞれの街や、ネットで知り合った彼らが、自分たちの街に呼んでくれて、僕はそこでDJをします。
仮に戦争が始まれば、戦場に駆り出されるのはその国の市民ですよね。何が起こるか分からない今、日本で動員が始まるとしたら、僕が友達やファンと殺し合うことになります。それっておかしくないですか? 誰かの命令でお互いの命を奪い合わなければいけないなんて。権力者たちは安全な場所で指示を出すだけでしょう。彼らや、もうけたい人は無傷……。
僕は、戦争を外交で回避出来ない無能な政治家と、武器を売ってもうける商人を軽蔑します。国家間の緊張を高める軍備費増強や敵基地の攻撃に反対です。もちろん、戦争そのものにも。安心して音楽を楽しめたり、踊ったり出来るのは平和があってこそ。DJとして、一人の人間として、心から平和を希望します。
(2023年2月5日付)
クラブやイベントで「見ました」
――なぜ新聞に投書を。
友人から相談を受けました。世の中がどんどん悪くなっている。会社の人や友人と意見交換したいけれど、気味悪がられたり、避けられたりして、全然響かない、と。ぼくは「投書してみたら」とアドバイスしました。
やってみたらと言ったとき、「そういえば、自分は投書したことないな」と。DJは、ちゃらちゃらしているみたいなイメージがあるから、DJの立場で投書して採用されたらインパクトがあるのではないか、と思ったのがきっかけです。
――反応はいかがでしたか。
すごかったですね。クラブやイベントに行くと、必ずひとりには「投書見ました」と声をかけられました。
――SNSとは違いますか。
広がりが全然違います。フェイスブックは基本、対象は友だち。ツイッター(現X)もファンやフォロワーが拡散してくれても限界がある。ぼくの投稿の閲覧数は最大で50万ぐらい。朝日新聞は公称400万部でしたっけ? SNSは賛同されて当たり前。全然違う考えを持っている人の世界が別にあるかもしれません。新聞というアナログのメディアは、いろいろな考えの人たちに開かれている。その違いが大きいと思います。
――どんな反応がありましたか。
ほぼほぼ好評で、批判は2件だけ。1件は「薄い」と。字数が限られているから、そう言われても気にしませんが、もう一つは興味深い批判でした。「政府の安全保障政策に守られているから踊っていられるんですよ。もっと勉強してください」とおしかりを受けました。
「もっと勉強します」と返信して、納得しかけたのですが、その直後、国会で「集団的自衛権や敵基地攻撃能力を使った場合、日本が武力攻撃を受けるのではないか」との質問に、政府が反撃される可能性を認める答弁をしたことを知りました。いまの政府のやり方はやはり危険やなと思いました。
「原発」や「戦争」に凍る空気
――「音楽業界には社会や政治に声を上げる人が少ない」というのはなぜでしょうか。
業界の人たちとの会話で、「原発」や「戦争」などをキーワードとしてステルスに(こっそりと)入れると、一瞬にして空気が凍ります。大手レコード会社と契約している、クライアントに代理店や大手企業がいると、アーティストは自粛しがちです。触れなくても音楽表現には影響がないと思っているから。
でも、ぼくがやっているユニットのひとつ「Kyoto Jazz Massive」のボーカリストは、人権問題や社会活動に日常的に取り組んでいる英国人です。歌詞にはメッセージ性が込められている。ぼくにしたら、「音楽と平和」は一体化しているので、タブーとして口をつぐんでしまうと、自分の表現に影響すると思います。
実は、坂本龍一さんから思わぬ返信が来たんですよ。5年ぐらい前、坂本さんの誕生日にフェイスブックのメッセンジャーで「ますますご発展を」と送ったら、「音楽的に?」と返事が来ました。坂本さんに市民運動をリードしてほしくて、「社会的にも坂本さんの影響が大きくなってほしいなという気持ちがあります」と追記しました。
これに坂本さんから「社会的…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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