声かけで特殊詐欺を食い止める「名人」が、栃木県矢板市のコンビニエンスストアにいる。店を訪ね、間近でその仕事ぶりを見せてもらった。
緑地にオレンジや赤の線が入ったおなじみの制服。セブン―イレブン矢板富田店の笹沼恵津子さんは、陳列棚にてきぱきとお菓子を並べていた。客が会計に動くのを察知すると、すぐレジに向かう。
レジ打ちを終えると、調理器に揚げ物をセットし、陳列作業に戻る。すかさず女性客が声をかける。「宅配便の箱はどこですか」。迷わず案内し、再び作業に。出勤してから1時間、息つく間もない。
お忙しいですね、と声をかけると、「それを楽しいって思っちゃうんです」と笑顔をみせた。
笹沼さんは、県内のコンビニ店員でただ一人の「声掛けゴールドマイスター(名人)」(県警認定)だ。ATMがあり、電子マネーカードも取り扱うコンビニは、いまや金融機関と並び特殊詐欺を食い止める最後の関門とされる。笹沼さんは1年間に3度、被害を防いだ実績を持つ。
最初は一昨年のクリスマスイブだった。5万円分のマネーカードを購入しようとした70代の女性に、売り場を尋ねられた。
「こういうのを買い慣れていらっしゃらないんだな。お孫さんのプレゼントかな」。女性を案内し、レジで女性の手元をふとみると、携帯が通話状態だった。警察に通報し、詐欺とわかった。
翌年2月には、やはりカードを購入しようとした高齢の女性に「著作権を買うと配当がもらえる」と話しかけられ、「そんなことってあるの?」と疑問を持った。「詐欺じゃない!」と訴える女性を説得できないまま警察に連絡した。
「もし詐欺じゃなかったら、『よかった』と喜んで、謝ればいいって思ったんです」
子育てが一段落した20年前、パート先に選んだのがセブン―イレブンだった。最初は1日4時間の勤務から始めた。
接客の仕事は性に合っていた…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル