夏祭りの出会いで少し前へ 引きこもっていた昔の自分に伝えたい言葉

 朝、目を覚まし、2階の寝室の窓から外を見る。目の前に広がるのは、誰も住まない荒野に変わったふるさとの姿。「元の暮らしには戻れないんだ」。胸が苦しくなり、気持ちがふさぎこむ。

 宮城県山元町の渡辺愛希(あき)さん(39)は、東日本大震災後の2012年から3年ほど心のバランスを崩し、自宅からほとんど外に出られない、引きこもり状態になった。自宅で一日中、パジャマ姿で過ごす日々。抜け出すきっかけは近所の夏祭りでの出会いだった。

 自宅は海岸線から約800メートル内陸にある。11年3月11日。あの日も愛希さんは自宅にいた。仙台市内の専門学校を卒業した後、漫画家を目指していた時期だった。いくつかの賞に入選したが、プロとしてのデビューは厳しそう。そろそろ次の道を考えようか――。そんなことを考えていた時、大地震に襲われた。

 「早く上がって!」。家族の声で、猫を抱いて2階に駆け上がった。直後に黒い津波が1階を突き破り、2階の窓ぎりぎりまで迫ってきた。翌日、自衛隊のヘリコプターで救出された。近くに住む、イチゴ農家の親戚一家が亡くなった。

 町外のみなし仮設住宅から、修理した自宅に戻ってきたのは翌12年のことだ。「住み慣れたふるさとに戻りたい」。ただ、そのころから心と体のバランスがうまく保てなくなった。

転機は母の意外な一言

 また津波が来ないか。窓の外…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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