福岡県に特定外来生物ツマアカスズメバチが侵入した。本土への定着を阻止できるか、正念場だ。現場に迫った。
「見たことがない動きをするなあ」。福岡市東区の住宅地。趣味でニホンミツバチの養蜂を営む造園業の石谷統冶(のりよし)さん(82)は4月下旬、巣箱の近くで、ミツバチを異様な動きで捕まえるスズメバチを見かけた。
在来種のオオスズメバチやキイロスズメバチもミツバチを襲いに来るが、巣箱にとまっているものを狙うことが多い。
異様な動きのスズメバチ
異様な動きのスズメバチは、飛行中のものを素早く確実に仕留めていた。スマホで画像を検索すると、ツマアカスズメバチとそっくり。これが今年最初に発見された女王バチだった。
5月6日には約6キロ離れた福岡県久山町の養蜂場で2匹目が発見された。
ツマアカスズメバチは韓国や欧州で急速に拡散する外来種。国内では長崎県・対馬で定着している。石谷さん宅は、外国船が出入りする箱崎ふ頭やコンテナターミナルから直線距離で4キロほど。今年になって韓国などから貨物にまぎれて侵入したとも考えられる。だが、新たに侵入が確認された場所で、春先のほぼ同時期に離れた場所で2匹が見つかったことはなかった。
「2匹は、昨年侵入した女王バチから生まれた2世代目ではないか」
ツマアカスズメバチに詳しい九州大の上野高敏准教授(天敵昆虫学)は、女王バチが侵入したのは昨年で、営巣を見逃してしまった可能性を疑った。
巣からは秋に次世代の女王バチが大量に旅立ち、越冬に成功した女王バチは春に新たに巣づくりを始める。他にも巣があるおそれがある。
高さ10メートル近いサクラの木の上に
予想は的中した。上野准教授の調査で、働きバチの活動が活発になる8月になって、久山町と篠栗町の山林や養蜂場計6カ所で、延べ70匹以上の働きバチが見つかった。本土では最大の危機的状況だ。これを受け、環境省も9月に緊急調査を実施。発見場所周辺に約700個の捕獲器を置き、2週間で働きバチと雄バチ計約30匹を捕まえた。
発見状況や個体の追尾から、巣が複数あることは確実になった。ただ、ツマアカは在来スズメバチより高い所に巣をつくるため、飛行ルートも高く、見失いやすい。「少しずつ距離を詰める地道な作業」を積み重ね、上野准教授は9月28日、福岡市東区でついに巣を1個発見した。高さ10メートル近いサクラの木の上で、枝や葉に覆われ、地上からは気づきにくい。約40センチと小ぶりの楕円(だえん)球状で、次世代の女王バチはまだ巣の中に育っていなかった。
巣がありそうな地区は他に3カ所あるという。巣は未確認だが、10月に入って見かける働きバチの数が減った。「在来スズメバチの巣と思って人が駆除したか、何らかの理由で自然に巣が壊れた可能性もある。だが、まだ気づいていない巣があるかもしれず、油断はできない」とみる。
環境省も9月下旬から、久山町と福岡市東区の計3地区で、匂いでおびき寄せた個体のゆくえを追いかける巣の探索調査を始めた。連日5人ほどの調査員で探したが発見できず、10月10日ごろに打ち切った。
「定着すると本州に広がるのも時間の問題に」
全ての巣を発見できない中で期待を集めるのが、環境省が10月上旬から実施に踏み切った「化学的防除」だ。殺虫成分を混ぜた餌を巣に持ち帰らせ、仲間に分け与えることで巣を全滅に追い込む作戦。巣のありそうな場所の近くに3週間、「毒餌」のわなを100個ほど仕掛けた。
毒餌は、全国の港などで発見…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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