A-stories「ケアワーカーがいなくなる?」
「こんな私が、介護をやってちゃダメだと思うんです」
母校の恩師にそう告げると、涙が止まらなくなった。
2016年7月。日向野(ひがの)由佳さん(28)が埼玉県内の特別養護老人ホーム(特養)で働き始めて、2年目の夏を迎えていた。
その日、入居者のトイレを介助していた。別の入居者が日向野さんの名前を呼ぶ声が何度も聞こえた。トイレに行きたいと訴えていた。
「ちょっと待っててね」
――また、この言葉を言ってしまった。
本当は待たせたくない。
しかし、ほかに頼める職員はいない。だから、「ちょっと待って」が口をつくことは、それまでにも何度もあった。あとで「何度も呼んでごめんね」と謝られたこともある。
でも、対応できない自分が、悪いのかな。
なんだか、涙が出てきた。
この仕事、向いていないのかもしれない。
短大の介護福祉科で2年間教わった岡田圭祐(よしひろ)さん(45)のもとに、車を走らせた。話を聞いてほしかった。
「私は介護に向いていないのでしょうか。辞めたいんです」
「介護が好きなのはわかるよ。でも少し休憩してみたら? また走り出せばいいんだし」
恩師の言葉に、少し気が楽になった。
しかし、長くは続かなかった。
この特養では70人ほどが暮らす。当時、介護職員は二十数人だった。短大の授業では、高齢者の意思や意見を尊重することが大事だと学んだ。すぐに対応してほしいと思っている入居者を待たせることは、こうした考えに反すると思った。できるだけ待たせないようにと心がけていた。
しかし、実際には、勤務時間の間に食事からトイレ、入浴など、決められたことを「流れ作業」のようにすることで精いっぱい。手が回らないこともしばしばだった。
お年寄りにイライラするなんて、やばい
特に、夜勤の時間は職員も3人だけと少ない。
3人でおむつ交換や服薬などにあたっていると、あちこちの部屋からナースコールで呼ばれる。「ちょっと待ってよ!」。忙しい夜勤中は、口調まできつくなってしまう。
トイレに付き添ったばかりの女性入居者にナースコールで呼ばれ、湿布を貼ってほしいと頼まれた。それを終えて居室から出ようとすると、また名前を呼ぶ声が後ろから聞こえた。
「また?」…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル