幼稚園の先生になる夢をかなえたばかりだった。孫娘は、ベッドで祖母に馬乗りになった。タオルを口に押し込み、鼻と口を両手で押さえた。祖母は足をばたつかせた。「黙ってほしい」。息絶えるまで両手の力をゆるめなかった。当時21歳と90歳。認知症の祖母を一人で介護し、5カ月あまりたった昨年秋のある朝のことだった。
兵庫県警記者クラブに所属し、殺人事件などを担当する記者4年目の私(26)はこの事件の発生から取材した。私にはグループホームで暮らす祖母がいる。脳に障害があり、被告の祖母と同じように意思疎通が難しい。なぜ事件は起きたのか。約1年取材を続けた。分からなかった背景を知りたくて、傍聴席に座った。
起訴状によれば、被告は2019年10月8日午前6時ごろ、神戸市須磨区の一軒家で、2人で暮らす祖母の口にタオルを詰め込み、鼻や口を数分間、押さえつけ、殺意をもって窒息死させたとされる。
「私のことを一番考えてくれていた」
今年9月9日、神戸地裁であった初公判の法廷に、殺人罪に問われた被告が現れた。黒髪を後ろでくくり、白いワイシャツ姿。小柄で、どこか幼さがある。検察官が読み上げた起訴内容に「まちがいありません」と答えた。
検察、弁護側の冒頭陳述や被告人質問などから、孫一人で祖母の介護を担った経緯が次第にわかった。
被告が2歳になる年に、両親は離婚した。一人っ子だった被告は母親に育てられたが、小学1年の時に母親が病死した。施設に一時預けられ、小学生の時、父方の祖父と祖母に引きとられた。
「誰が引きとったと思うねん」「母親は借金ばっかりつくって、私は迷惑かけられた」。祖母の言葉に悩んで中学時代に3、4回、自殺未遂を繰り返した。
医師から生活環境を変えるよう勧められ、中学2年になると、今度は近所に住む父のきょうだいのおばに引きとられた。
子どもが好きだった。被告人質問で、小さい頃から幼稚園の先生になる夢があったと明かした。
弁護人「幼稚園の先生になるのが夢だった?」
被告「はい」
弁護人「今後の仕事はどう考えているの?」
被告「小さい頃の夢で子どもが好きだったので、また子どもと関係した仕事を見つけたい」
ピアノを買ってくれるなど夢を支えたのが、祖母だった。
検察官「おばあちゃんは学費や生活費を出してくれた。幼稚園の先生になることを応援してくれていたと感じていなかったか」
被告「感じていました。応援してくれていました」
検察官「おばあちゃんは、どんな人」
病院、追い出された祖母
被告「厳しいこともあったが、私のことを一番考えてくれていた」
被告は、短大卒業後の2019年4月、神戸市にある幼稚園の教諭として社会人生活をスタートさせた。ちょうどそのころ、祖母の介護話が持ち上がった。
5年ほど前、祖父はすでに他界…
2種類
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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