夢に29歳の息子、でも顔がわからない 家族5人が背負い続ける現実

コールドケース 神戸・高2刺殺事件

 6月7日、神戸地裁

 高校2年だった堤将太さん(16)をナイフで刺殺したとして、殺人罪に問われた被告の男(30)の公判が始まった。土日をはさんで4日間、集中審理が続いた。

 裁判員裁判では、検察側と弁護側がどんな主張をするか、事前に整理される。

 今回の争点は二つ。

 殺意はあったのかどうか。そして、刑事責任能力を問える精神状態だったのかどうか、だ。

 「傷つけようとはしたが、ナイフで刺すと死んでしまうかもしれないとか、痛いとかは全く分からなかった」

 被告は法廷でそう述べ、殺意を否認した。当時は幻聴や妄想があり、事件を起こしたのはそのせいだ、と主張した。

    ◇

 被害者参加制度を使って公判に参加した将太さんの父・敏さん(64)は、被告に直接質問する機会を与えられた。

 「将太を刺したとき、あなたはどんな気持ちでしたか」

 「気持ちは、何もないです」

 「将太は刺されながら『痛い、痛い』と言った。それを聞いて何を思いましたか」

 「何も、思いませんでした」

 「(逮捕するために)自宅に警察が来た時、どう思いましたか」

 「何も感じなかったです」

 「警察が来る理由に覚えがなかったから?」

 「そうです」「警察から(逮捕容疑を)説明されて、事件のことを少しずつ思い出しました」

 「将太がどれだけ痛かったか、つらかったか、苦しかったか分かりますか」

 「分からないです」。同じ経験をしていないから、と付け加えた。

 中央の証言台に座り、正面を向いたままの被告。その被告を、横の検察側の席から険しい表情で見つめる敏さん。2人の視線は交わらない。

 敏さんは被告にさらに問う。

 「今ここにいる私たちを見て、どう思いますか」

 「自分が生きていて申し訳あ…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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