【TBSラジオ「荻上チキ・Session」 in 朝日新聞ポッドキャスト】⑤
日本に来る技能実習生が増え続けてきたなか、多くの人が厳しい生活を強いられています。職場で「死ね」「帰れ」と言われたり、急に解雇されたり。命を絶つ人もいるそうです。
TBSラジオ「荻上チキ・Session」で放送された「朝日新聞ポッドキャスト in Session」で、パーソナリティーの荻上チキさん、南部広美さんと、朝日新聞の神田大介・コンテンツ編成本部音声ディレクターが語っています。朝日新聞デジタルでは、放送で流せなかった部分も含めたディレクターズカット版をご紹介します。その一部を記事にして公開します。
このほかディレクターズカット版では、経済危機で困窮したベネズエラの話題にもなりました。読者の声を代弁するポッドキャストのあり方も議論します。ぜひお聴きださい。
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荻上:技能実習生の方々が、コロナ禍で生活が大変になっています。このテーマについて、朝日新聞はたくさん記事を掲載していますね。
神田:ベトナム人は約41万人いて、2009年から10倍に増えたと言われています。ただ、コロナの影響で日本人でもなかなか仕事がない状況です。ベトナム人は雇用の調整弁になっていて、厳しい状況になっている。
荻上:技能実習制度で来られる方は、多額の借金を背負っている方も多いですよね。それを返すために劣悪な労働を強いられても、逃げることができない。そういった問題は、多くの方がご存じだと思います。今回リポートした平山亜理記者は、どんな方ですか。
神田:平山記者はブラジル生まれで、幼い時はエジプトに住んでいました。朝日新聞でもロサンゼルス支局長兼ハバナ支局長となり、アメリカとキューバの国交正常化や、銃乱射事件などの取材を担当していました。現在は東京本社社会部の武蔵野支局にいます。
荻上:そんな平山記者が取材した、技能実習生に関するリポートの一部をご紹介します。
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「コロナの関係で、失業しました。技能実習生として来たんですけど、いまベトナムで小さい子ども、2人いる……」
平山:話しているのは、ティック・タム・チーさんという、ベトナム人の尼さんです。埼玉県本庄市の大恩寺で、大勢のベトナム人の若者を預かっているんです。
神田:お寺に住んでいるということですか。
平山:一時的に保護しています。コロナの関係で失業したり、ベトナムに帰りたいけど飛行機がなかったりして、居場所がない人たちを預かっています。ベトナム大使館がチャーター便を出しているんですけど、病気がある人や妊娠している人が優先されます。「私は帰りたい。だから助けて下さい」というような文章を書いて大使館に渡すと、大使館は尼さんに「預かって下さい」と頼むんです。
神田:「駆け込み寺」ですかね。
平山:そうです。読み上げていたのは、そのうちの一人の女性が書いた文章です。
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荻上:大恩寺については他社も報道して注目されています。駆け込み寺って江戸時代とか、セーフティーネットが脆弱(ぜいじゃく)だった時期のものだという認識があると思うんですが、現代ですよね?
神田:本当ですね。でも、お寺ですから、数十人しか入れないんですよ。お寺に来られるだけでも不幸中の幸い、命をつなぐことができている。どこにいるかわからなくなっている人も多いそうです。
荻上:監理団体も、技能実習生が失踪した職場を指導するのではなく、失踪した外国人を連れ戻そうとしている動きがありますよね。
神田:技能実習制度は、日本政府が作った制度です。正規の就職先で実習生が働いているにもかかわらず、手取りが1万円というケースもあります。
荻上:名目上は「実習」なので、労働とは言い切れないという姿勢ですよね。
神田:これだけ名目と実態が乖離(かいり)した例もないんじゃないかと思うくらいです。職場でもひどい扱いで、ハンマーで殴られたり、「死ね」「帰れ」と言われたり。さらに高所で命綱をベトナム人につけさせないということもあるそうです。いじめや差別が横行し、気に入らなくなると解雇する。
荻上:大恩寺に集まった方々は、コロナ禍で仕事も見つけられない。技能実習の制度上、別の職場に移れると規定は変わりましたけど、柔軟に運用されていないという課題もあります。
神田:本当に皆さん、行き場をなくしている状態です。「コンビニエンスストアのイートインのスペースで2時間ずつ滞在しなさい」とアドバイスを受ける人もいるそうです。
荻上:10カ所くらいのコンビニを、輪番でまわるということですよね。
神田:平山記者がベトナム人を取材したのも、ベトナム人が日本でたくさん命を落としていると聞いたことがきっかけだそうです。ベトナム人を保護している尼僧のティック・タム・チーさんは、自ら命を絶ったベトナム人の青年のためにお経を上げていたそうです。目につかないところで、命が失われているんです。
荻上:結論から言うと、技能実習制度を廃止して、すでに日本にいる方には滞在ビザを付与するなどして、これから日本に来る方も含めて「労働移民」と認める路線が必要だと思います。でも、政府はかたくなにそこには行かない。しわ寄せが苦しむ人たちを生み、犠牲につながっていますね。
神田:自治体や政府のセーフティーネットはない。実態も把握していない。私たちを支え、東京五輪の施設も作っている人たちを、こんな風に扱って良いんですかね?
荻上:技能実習制度については、実習生を送り出す国の方でも、不当な腐敗があるわけじゃないですか。菅首相がベトナムへ外遊に行った時、両国のトップ同士が会っている間で、両方で見えないようにされていると思いました。
神田:日本の給料はまだ高いですから、若いベトナムの人たちがやってくる。でも、ベトナム人の犯罪者集団にも日本人にも、食い物にされ続けるんですよね。留学生も良い「お客さん」になっている一面があります。「授業に出なくていいから、アルバイトをちゃんとやりなさい」という学校もある。
荻上:そうやって日本は魅力がない国になっていく。頼んでも労働者が来なくなる一方、これまでの技能実習生の扱いをめぐって裁判になるかもしれない。各国で当時の日本の技能実習制度を疑問視するようになり、国際的に非難されるとしても、避けがたいですよね。今から誤りを正すことが必要だと思うんですけど、歩みは遅いです。
神田:ベトナム人技能実習生の問題については、ハノイ支局長の宋光祐記者も、ベトナム現地で取材をしています。日本にいるベトナム人がFacebookで「暴力を受けた」と投稿していて、日本のイメージが悪くなっているそうです。代わりに人気が出ているのが台湾や韓国。台湾の方が条件が良いといいますし、韓国は政府がブローカーをなくすための動きを見せている。
荻上:その非人道性が外国人労働者や技能実習生に向けられているとするならば、日本の貧困層も厳しい目を向けられていると考えられます。そんな「蹴落とす」社会って、とんでもないものですよね。
神田:日本人でも、ホームレスが追い出されるという話もありますよね。
僕が生まれた昭和の頃より、世の中は良くなったと思うんですよ。でも社会的に弱いところにいる人たちに対して、まだまだ足りないところはあります。
このほかディレクターズカット版では、経済危機で困窮したベネズエラの話題にもなりました。読者の声を代弁するポッドキャストのあり方も議論します。ぜひお聴きださい。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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