経済的に恵まれない子どもたちの学びを支援するNPO法人「Learning for All(ラーニング・フォー・オール)」が注目を集めています。代表理事を務める李炯植(りひょんしぎ)さん(29)は、どんな思いで子どもたちと向き合っているのでしょうか。
徹底した「仕組み化」
ゴールドマン・サックス、日本財団、大和証券グループ。子どもの貧困とたたかうこのNPO法人には、大企業や財団から次々に支援が寄せられる。始動5年で事業規模を当初の7倍の3億円近くまで引き上げた。
東京の下町や埼玉、茨城県で「寺子屋」を営む。所得が低い家庭の小中学生を、学生ボランティアが無償で教える。少人数指導の学習支援だ。
見学に来る企業人は徹底した「仕組み化」に目を見張る。教材は学生の作ったものを全部ネット上に蓄える。良いものを抽出して共有し、生徒に合わせ加工して使う。教室に観察専従の学生を置き、授業後に講師と反省点を詰める。「僕らも学習し続ける。変わり続ける。そこにうそはつかない」
原点は初めて学生講師をしたときの苦い記憶にある。前身の団体で高校受験を目前に控えた3人を担当した。ところが、先輩たちは志望校すら把握していない。結局だれも志望校に合格させてやれなかった。
「これでは生徒は『やっぱり自分はできないんだ』という無力感しか得るものがない」。教員やケースワーカーに教えを請い、仲間と一からやり方を見直した。机の配置ひとつにもこだわった。生徒が2人なら三角形を作る。講師は壁を背にして座る。生徒は先生しか目に入らず、気が散らない。
難題は質の維持だった。ボランティアは原則3カ月交代で、1年続けば長い方だ。だれかが良い教え方を編み出しても引き継がれない。入れ替えのたび授業の完成度が下がる。乗り越える知恵が「仕組み化」だった。
磨いた強みが新たな事業を生んだ。蓄積した教材や研修動画を、各地のNPOなど12団体に一昨年から有償で提供している。「考え方も組織もしっかりしている李さんのところでしか、ここまではできない」。提携先のNPO法人いるか(福岡市)が評価する。
学習支援だけでは終わらない。家で満足に食べられず、学校のない夏休みになるとやせてしまう子を見てきた。不登校や発達障害のため教室に入るのがつらい子とは、一緒に絵を描き、パズルをして過ごした。「手を差し伸べるのが早いほど、ワニの口のように開いてゆく格差を狭められる」。4年前から低学年の子の居場所支援を始めた。放課後に一緒に遊び、宿題を見守り、食卓を囲む。生活習慣や人への信頼感を育み、家庭を支える。
足りないと感じていた高校生への学習支援も昨年から一部で始めた。ラーニング・フォー・オール。「すべての子に学びを」の名の通り、6歳から18歳まで切れ目のない支援に挑む。(各務滋)
記事後半は李炯植さんのインタビューです。
企業の支援を得られる理由
――学習支援の道に入ったいきさつは。
兵庫県尼崎市の貧困家庭の多い…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル