テニスの全米オープンで優勝した大坂なおみ選手は試合での活躍とともに、人種差別に抗議するマスクが話題となりました。ハイチ出身の父と日本出身の母をもち、「日本人でもあり、黒人女性でもある」大坂選手のアイデンティティーにも関心が集まっています。記者も、父が日本出身、母が中国出身で、この問題についてはモヤモヤを抱いてきました。立命館大研究員の下地ローレンス吉孝さん(国際社会学)に疑問をぶつけてみました。
下地さんは海外にもルーツがある人々について研究をしており、「『混血』と『日本人』 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史」(青土社)の著書があります。また、下地さんの母親は米国と沖縄の「ハーフ」です。
――私は「ハーフ」です。この言葉と付き合って30年以上たちますが、いまでも「どっちのアイデンティティーが強い?」と聞かれ、戸惑います。そんなに簡単に割り切れるものではないのですが
「アイデンティティーはその人固有のもので、自己決定権が尊重されるべきだと思います。大坂選手が自分のことを『日本人でもあり、アメリカ人でもあり、ハイチ人でもあり、黒人女性でもあります』と語っていました。一人の人間に複数のアイデンティティーが同時に存在することが示されています。ただ、日本では、このような現実に認識が追いついていない状況があり、複数のアイデンティティーが認められず、いずれかであることを周囲から要求される、という場合があります」
――大坂選手が、黒人が警官から銃撃された事件に抗議して試合を棄権すると表明したときや、「私はアスリートである前に、1人の黒人の女性だ」と言ったとき、ネットでは「日本人なのか、黒人なのか」という議論も見られました
「大坂選手がSNS上に上げた動画に『Nationality(国籍)』と『Ethnicity(民族)』の違いについて説明したものがあります。英語圏では、これらが違う概念として浸透していますが、日本では国籍と人種・民族をイコールで結びつけようとする傾向があります。大坂選手に対しても、外見や言葉や立ち振る舞いについて、あるいは人種差別反対運動『ブラック・ライブズ・マター(BLM)』との関わりについて『日本人的ではない』とする他者からの意見がみられます」
「しかし、日本国憲法と日本の…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル