大学中退、6年間ニートの古川真人さん、雑草からの「背高泡立草」での芥川賞(スポーツ報知)

 第162回芥川賞(2019年下半期、日本文学振興会主催)は、古川真人(まこと)さん(31)の「背高泡立草(せいたかあわだちそう)」(集英社、1540円)に決まった。大学中退後、6年間のニート生活を送った古川さんは、デビュー作からの過去4作が芥川賞候補に。「4度目の正直」となり、美酒に酔った受賞決定当夜を振り返った。(北野 新太)

 ―受賞会見の記念撮影の時、足がフラついているように見えましたが…。

 「実は…前夜3時頃まで鴻池留衣さん(作家・男性)とお互いにお酒を飲みながら電話で話してて…。あ、いや、新人賞を同時受賞した縁で親しくしていて。芥川賞の話はしなかったと思いますが…。で、起きたら二日酔いになってました」

 ―やはり…。

 「で、フラフラになりながら神保町の待ち会(編集者らと受賞の報を待つ会合)の会場にたどり着いたら…ビアホールだったんです。飲んで大丈夫かな…なんて思いつつ飲んでいたんですけど、4回目ともなれば緊張もなく、落ちた後の流れも分かっていましたので」

 ―そんな時に吉報。

 「想像もつかない出来事でした。わーっとタクシーで会見場まで行って、なんだなんだ、何が起きてるんだ? まあ数時間後には家に帰れるだろう、と思ってました。うれしい、みたいな感情までたどり着かないままに」

 ―さすがに、もう実感も。

 「なんとか日常に帰れたなあ、という気持ちです。外に出てお話をする機会は増えましたけど。今みたいに」

 ―「4度目の正直」の受賞でした。デビュー作から全て、お母さんの故郷である長崎県平戸市の的山大島(あづちおおしま)を思わせる離島が舞台になっています。どうしてでしょう?

 「大学は中退しましたし、就労の経験もありません。書ける範囲が狭いんですけど、小さい頃から盆と正月に訪れた島のことについてなら書けるかもしれないと思ったんです。過疎の島ですから行く度に変化しますし、知らないことだらけだなあと思って。(帰省する度に親族に)小言を言われたりもしましたけど、今回は祖母が『長生きはするもんだねえ』って言ってくれたそうなのでよかったです」

 ―でも、今回で一区切りにすると。

 「次からは目まぐるしいものを書きたいです。事件事故、報道の速度に取り囲まれているような主人公を。さすがに島の外に軸足を移していかないと書けなくなってしまいますから」

 ―原点を伺うと、どんな文学青年だったのでしょうか。

 「中学時代に三島由紀夫を読んで、目がくらむような絢爛(けんらん)さや非人間的な感受性の高さ、これこそが小説なんだと思いました。その後は、一生読まないだろうなと思っていたトルストイの『戦争と平和』を十数回は読みました。次第に、小説を書いて生きていけたら素晴らしいと思うようになりましたけど、想像もつかないじゃないですか」

 ―しかし、大学中退後に小説家を志した。

 「成り立たないだろうと思いながらも、やはり憧れの職業としてはあって。どうなるんだろう、なんて悩んでも眠れなくなるだけなので、考えることには熱心にならず、ただ書いていました」

 ―目が不自由なお兄さんと二人暮らしをしながら、机に向かってきた。

 「兄の存在があるからなのか、悪を追求する小説を書く気にはなれないんです。悪を断罪する立場も。傲慢(ごうまん)なものが入り込んでしまう。兄は『忙しくなるね』と言ってくれました。とにかくテングにはなりたくないです」

 ―執筆を離れた時に楽しむ趣味は。

 「全くないんです。お酒を飲むのは逃避ですし。ビール…特にホワイトエールは好きですけど。音楽は聴かないし、ゲームもしない。スポーツを見ようと番組表を眺めたりもしない。お笑いも全く知らないし、本を読むのは半分仕事です…。料理はカレーとかおでんとか作ったりしますけど、手抜きですし。やはりお酒かな…でも、好きだけど弱いんです。翌日に残っちゃう」

 ◆「背高泡立草」 大村奈美は母の実家で納屋の草刈りをするために母、伯母、いとことともに福岡から長崎の島に向かう。空き家になった「古い家」と「新しい家」では何があったのか。親族の話に耳を傾けながら、流れた時間を、これから流れていく時間を思う。

 ◆古川 真人(ふるかわ・まこと)1988年7月29日、福岡市生まれ。31歳。第一薬科大付高卒、国学院大文学部中退。2016年に「縫わんばならん」で新潮新人賞受賞。同作、「四時過ぎの船」(三島由紀夫賞候補)、「ラッコの家」、そして本作と芥川賞候補となっていた。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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