3400円のガスマスク
「まあ、アウシュビッツとかヒロシマにいくみたいなもんだよね。知ってて損はない歴史だし」
チェルノブイリ・ツアーが始まる、ゾーン(立ち入り禁止区域)へ入る30キロ圏内のチェックポイント。
ラフなジーンズとトレーナーという格好のアメリカ人の男性に、ツアーへの参加の理由を聞いてみると、そんな風にあっさりと話す。その後ろでは、6~7台のツアーバスが並んでチェックを待っていた。
チェルノブイリへの「観光」が、人気を博している。
現地の報道によれば、2019年にチェルノブイリの立ち入り禁止区域内への訪問者数は10万人が予測されており、これは前年のおよそ3割増だという。2015年には訪問者数はわずか8000人だったというから、いかにその人気が急激なものかがわかる。
チェルノブイリの街から車で2時間ほど離れた、ウクライナの首都・キエフの街中でも、史上最悪の原発事故が起きた場所への、ある種の“無頓着さ”を感じた。
歩き回っていて見かけたのは、ガスマスクのレプリカと、デカデカとアピールされた「トリップアドバイザー・ナンバーワン・ツアー」の文字。
店内(ツアー会社の窓口になっていた)に入ると、線量計(ガイガーカウンター)、ワッペン、ポストカード、といった「おみやげ」が出迎えてくれた。ガスマスクの値段を見てみると、ウクライナの通貨で800フリヴニャ、約3400円だ。
廃墟のピカチュウ
かくいう筆者も、8月に「観光」目的でチェルノブイリを訪れてみたひとりだ(正確には取材目的だったけれど、文字通り「チェルノブイリ・ツアー」に参加し、廃村をウロウロするだけが目的だったので、やっていることはほとんど観光と変わらなかった)。
独特な青色があしらわれた家屋、ソ連時代に使われていた教科書、国産車。33年前に捨てられたソビエト連邦時代の遺跡……。
そこにあったのは、チープな感想だが、ゲームや映画のなかのような現実味のなさだった(実際、原子力発電所に最寄りの街でチェルノブイリの隣りに位置するプリピャチは有名なゲームの舞台にもなっているようだ)。
立ち入り禁止区域内にある捨てられた家にいわばゲーム感覚で勝手に侵入する人々は以前から問題視されてきたが、チェルノブイリへの観光が一般化したことで、ここ1年ほどで新しい動きも目立ってきている。
それがインフルエンサーによる不適切な画像・動画投稿だ。実際、インスタグラマーが立ち入り禁止区内でヌード写真を撮影し、SNSで炎上騒ぎが起こったりもしているようだ。
この投稿をInstagramで見る
180cm.さん(@nz.nik)がシェアした投稿 – 2019年 6月月6日午前7時32分PDT
村をめぐっていると、さまざまな場所でピカチュウのグラフィティ(落書き)を見かけた。ピカチュウといえば、いわずと知れたポケモンのキャラクターだが、電気ねずみという設定があるので、発電所とかけた一種のジョークなのだろう。
さらに皮肉だと感じたのは、ポケモンGOをしている観光客と、彼/彼女にけげんそうな目を向ける、現地の原発作業員を描いたグラフィティだ。観光客はTシャツ・短パンでのんきに「ピカチュウはどこ?」と聞いているように見える。
現実ではない「ゲーム」感覚で被災地を訪れている観光客がいることへの、風刺なのかな。そう思いながら、パシャリと落書きにスマホカメラを向けた。
【関連記事】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
Leave a Comment