知る人ぞ知る銭湯王国の大阪で、昔ながらの公衆浴場が急速に姿を消している。平成30年度の調査ではついに東京に抜かれ、全国トップの座から陥落した。内風呂の普及や後継者不足といった構造的な問題は東京にも共通するが、大阪の場合は関西国際空港を“水没”させるほどの風雨をもたらした昨年9月の台風21号が追い打ちとなった。さらに10月10日の「銭湯の日」を前に、大阪の多くの銭湯で、消費税増税に伴い入浴料が値上げとなる見通しだ。経営者は「客足がますます遠のく」と危機感を募らせる。(井上浩平)
■北陸出身者が開業
「銭湯は慈善事業ではないから、需要がなければ減るのも仕方がない。昔は街で道案内を頼めば、当たり前のように『銭湯の煙突の近く』とか『風呂屋の角』と目印にされたほどだったが…」。大阪府四條畷市の銭湯経営、土本昇さん(64)が現状を憂えた。
家庭に風呂があるのが珍しかった時代、銭湯は日常生活に欠かせない施設だった。土本さんによると、大阪では戦前から戦後にかけて、石川や福井、富山など北陸地方出身者を中心とする「初代」が大阪に移住して銭湯の経営を始めた。その後、仕事を手伝わせるために家族や知人を呼び寄せ、のれん分けする形で府内各地に広がっていったという。
銭湯の開業には、土地取得を含めたそれなりの初期投資がいる。そこで、農業などで蓄えのあった北陸出身者による開業が増えたとの説がある。土本さんの先代の父親も石川出身だ。
大阪府環境衛生課によると、府内の公衆浴場数は、統計として残っている最も古い記録の昭和44年度が最多で2531軒。その後は風呂付き住宅が当たり前になり、経営者の高齢化や施設の老朽化で右肩下がりに。昨年度の集計では10年前から半減して517軒となり、542軒の東京に1位の座を明け渡すことになった。
■10月から大人450円に
大阪の銭湯減少に追い打ちをかけたのが、昨年6月の大阪北部地震と同9月に関西を襲った台風21号とみられている。
府公衆浴場組合が加入している410軒に実施した調査では、2つの自然災害により、半数が「煙突が折れた」「屋根が飛んだ」など何らかの被害が出たと回答。今年9月までの1年間で約40軒が廃業し、組合員は369軒となった。
同組合の山谷昌義事務局長は「廃業理由は詳しく聞けていないが、被災がきっかけになった銭湯もあったと思う。壊れた施設の修復費用を投資しても、回収が見込めないと判断したのではないか」と話す。
さらに逆風となりそうなのが入浴料の値上げだ。銭湯などの公衆浴場は風呂がない世帯の衛生面を支える公益性があり、都道府県が入浴料の上限を決めているが、府公衆浴場入浴料金審議会は9月、「消費税の負担相当額を反映する改定はやむを得ない」として、大人(12歳以上)の利用料金の上限を10円引き上げて450円とする答申を府に提出した。大半の銭湯で消費税率が変更される10月から適用される見通しだ。
山谷事務局長は「消費税アップ分の値上げなので銭湯の収入が増えるわけではない。燃料代も高騰しているし、利用者にとっても料金が上がるのは困るだろう」と影響を懸念した。
■「文化の灯消さない」
明るい話題もある。銭湯文化を残そうと、大阪の若手の銭湯経営者らが平成28年、ユニークな集客イベントを企画するグループ「for U-湯)」を結成。現在は30~50代の20人が月1回集まり、アイデアを出し合っている。
あるベテランの銭湯経営者は「経営者の多くは長年、銭湯をやっていて高齢化している。若手の考えや意見を聞く場がなかった」と歓迎する。
for Uが企画したイベントは、府公衆浴場組合の了承を経て全組合員に伝えられる。イベントに使うグッズを組合が用意し、実施を希望する銭湯に提供している。
4月には入学祝いをテーマに、湯船に大量のアヒルのおもちゃを浮かべる「あひる風呂」を実施。8月11日の山の日には同府能勢町産のヒノキの丸太の輪切りを浴槽に入れる「ひのき風呂」を行った。11月26日の「いい風呂の日」には、かんきつ類で湯船を満たす企画も温めているという。
親子2代にわたり大阪の銭湯の栄枯盛衰を見てきた土本さんは「番台に座って『いらっしゃい』と客を迎えるだけの大名商売の時代は終わった。新しいお客さんを取り込もうと意欲のある若手もいるし、このままのペースで銭湯が減り続けるとは思っていない」と力を込めた。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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