前回の東京オリンピック(五輪)があった1964年に開店し、半世紀にわたり親しまれてきたバイキングレストランが大阪・梅田にある。コロナ禍で休んでいたが、今回の東京五輪の開会式前日、502日ぶりに復活した。その店、「オリンピア」には、客が少しずつ戻ってきた。
JR大阪駅すぐ近くの大阪新阪急ホテル。地下1階から、香ばしい匂いがただよってきた。
「祝再開」と書かれた黒板を掲げたオリンピアに正午前に入った。
エビのあぶり焼き、ビーフステーキ、北京ダック、サーモンのパイ包み焼き、すし、マグロ丼……。280席ある空間に80種類の料理が並ぶ。
昭和の頃から通うという大阪府堺市の女性(74)は「コロナやから仕方ないけど、ほんまに久しぶり」。
天ぷらの盛り合わせを食べた孫娘(10)は「お店の見た目もきれいやし、味もおいしい」と話す。
父母、祖父母と3世代で訪れた大阪市の女性(25)は「どれもシェフの作り立て。和・洋・中と幅広くそろっている」と言う。
前回の東京五輪、1964年に開店 関西バイキングの先駆け
オリンピアは「世界30カ国以上の料理が食べ放題」を売り言葉にオープンした。
当時の関西では珍しいバイキング形式で人気を集めた。料理を載せるテーブルは海賊船をイメージしてつくった。
その後も小さな機関車を走らせたり、お化け屋敷風にしたり。「にぎわってナンボ」と様々な仕掛けで親しまれ、2019年も毎月2万人が訪れていた。
コロナ下の逆境 励ましの電話
コロナ禍で状況は一変した。
当時の安倍晋三首相は昨年3月の対策本部で、ビュッフェ形式の会食やスポーツジムを例に挙げ、「換気が悪く、密集した場所や不特定多数の人が接触する恐れが高い場所では、感染拡大リスクが考えられる」と指摘。「このような空間に集団で集まることを避けて」と呼びかけた。
オリンピアは昨年3月から休業を余儀なくされた。
昨夏や昨秋など、何度か再開直前までこぎ着けたが、その度に感染が再拡大して断念。従業員は自宅待機が続いた。
レストラン部チーフの堀美穂さん(34)は「普段は活気のある場所がしーんとして暗くて、『怖っ』って思って。すごくさびしかった」と話す。
休業中も常連客から、いつ再開するのか問い合わせが絶えなかった。
休業を伝えると、「待っているよ」「がんばってね」と励まされた。かつて結婚式を開いた思い出を語る人もいた。
電話番を務めたマネジャー坂本宏明さん(52)は、「モチベーションを保つのが難しいなかで、絶対に再開しなきゃと思わせてくれた」と話す。
再開にあたり対策を取った。
お客が大皿から料理を取るのではなく、シェフがあらかじめ個別にお皿に取り分けて渡す方法に変えた。
手の触れる場所に抗菌・抗ウイルス加工を施し、280席のうち使用は150席に限定。30分ごとに最大50人までの入場制限を実施し、目玉料理ができたことを知らせるマイクパフォーマンスもやめた。
4連休の初日の22日に再開することが決まった。
東京五輪の開会式の前日。
堀さんは「今まで何度も開けようとしてダメで、不思議とこの時期になった。偶然ですが、五輪とご縁を感じる」と話す。
1年4カ月以上ぶりの再開初日。
和・洋・中・デザートの各担当シェフ20人が、過去の人気料理から選んだ「ベストセレクション」をふるまった。
坂本さんは「何度もリハーサルをしたが、緊張でガチガチ。感動の涙を浮かべる余裕もなかった」と話す。
再開後のお客の入りは通常の3~4割ほど。モットーである「活気」「にぎやかさ」も控えめだ。
それでも、従業員一同が心を込めて、マスク越しに小声でつぶやいているという。
「いらっしゃいませ」(矢島大輔)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル