変化によるリスクを過剰に恐れる「現状維持バイアス」が働いたのか。地方自治史上初となる政令指定都市の大阪市を廃止、4特別区に再編する大阪都構想の賛否を問う住民投票は、再び反対多数となった。「荒療治」によるメリットよりデメリットが大きいと不安視されたのだ。10年越しの政争は決着したが、都市戦略をめぐる議論に幕を引くことは断じて許されない。 都構想の目的は、大阪府市の「二重行政」の解消で税金の無駄遣いを是正することだけではない。都市開発などの広域行政で政令市の大阪市が持つ巨大な権限を府に集約し、成長戦略の司令塔を一元化することが主眼だった。10年前、大阪維新の会が都構想を掲げたのは、「府市(ふし)合わせ(不幸せ)」と揶揄(やゆ)された府市ばらばらの行政が非効率な税金の投資や競争を生み、大阪全体の発展を阻害してきたとみたからである。 5年前の都構想否決以降も府市トップの座を占めた維新政治の下で、大阪中心部と関西空港をつなぐ鉄道新線・なにわ筋線やJR大阪駅北側「うめきた2期」の計画は進展し、研究所や港湾局など重複施設・組織の統合が進んだ。惨敗に終わった大阪市の2008年夏季五輪招致とは対照的に25年大阪・関西万博の誘致に成功、新型コロナウイルス対策でも成果を生んだ。 府市一体の大阪は10年前よりよくなった。そんな市民の実感は広がっていた。だが皮肉にも、既に二重行政が解消されている現状があり、高い人気を誇る吉村洋文知事ら維新への支持とは裏腹に都構想の必要性が浸透しなかったのだろう。 特に最後まで消えなかったのが、特別区が担う教育や福祉など住民サービスへの懸念だ。二重行政の解消で生む財源で拡充する-とした制度案に対し、反対派はコロナ禍の税収減、さらに政令市の財源と権限が奪われ、住民サービスは低下すると主張。「市の4分割で行政コストが218億円増加」という前提条件が異なる市財政局の誤った試算報道や「市営住宅がなくなる」といった根拠不明の情報も飛び交い、市民の不安を払拭しきれなかった。 維新は一丁目一番地の看板政策が消滅し、再出発を迫られる。中央政界への波及も必至だ。一方、政令市などの大都市は今後、人口減少が加速する中で制度の抜本改革が求められる。大阪、関西全体の成長を見据えた都市戦略の練り直しは急務である。都構想に代わる明確なビジョンを共有せず、デメリットの主張一点張りだった反対派も、その重責を背負ったことを忘れるべきではない。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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