奈良の観光が大きく動いている。奈良公園バスターミナル(BT)が今年4月に開業。来春には県コンベンションセンター(国際会議場)と外資系高級ホテル「JWマリオット」がオープンする。「ハイエンドな観光地」を目指す荒井正吾知事に、観光と経済の観点から今年を振り返ってもらうとともに、来年の方針を聞いた。(川西健士郎)
■「高級観光地」形に
「奈良は高齢者の資産の保有高が全国2位。会社ではなく所帯がお金を持っている。消費額も多いが、県内消費率は全国で最低レベルだ」
荒井知事は、低調な県内消費の改善を主要な経済課題に挙げる。大阪や京都へのアクセスの良さが、こうした構造を招いていると分析し「質の高いものを県内で消費してもらえるよう、いいサプライサイド(供給側)を誘致する必要がある」と話す。
今月、令和12年までの10年計画を発表した南都銀行(奈良市)も、県内総生産の10%増加を目標に掲げる。同社は「ポテンシャルのある『宿泊・飲食サービス業』と関連する『卸売・小売業』『製造業』『保健衛生・社会事業』の拡大を目指す」とするが、荒井知事も観光から消費拡大につなげる構想を持っている。
「商店街をローエンドからハイエンドにするのは難しい。質の高い消費に転換していくためには、観光をハイエンドにするのが有効だろう。欧米の高級観光地にラグジュアリーブランドや宝石店があるように、宿泊とショッピングが一緒にならないといけない」
県はすでに、奈良市役所前に外資系高級ホテル「JWマリオット」を誘致し、その隣にはコンベンションセンター(国際会議場)を建設中。ともに来年春の開業予定で、知事は「ハイエンドな観光地を目指してきたが、ようやく形になってきた」と実感を込める。
■BT利用に課題残す
「今年は(ロンドンの)大英博物館で奈良の仏像を展示したが、そうした仏像を鑑賞されるような人にこそ楽しんでもらえる観光地を目指している」
大仏だけを見て満足し、県外の宿泊先にとんぼ返りしても奈良を知ったことにはならない。奈良に宿泊して、歴史や文化をじっくり味わってもらえる観光客をより大切にしたい-。それが荒井知事の思いだ。
県はこのため、奈良公園(奈良市)にある飲食店の充実を促し、トイレ整備などのアメニティ向上を進めてきた。約45億円をかけ、奈良公園BTを建設したのもその一環だ。だが、BTよりも使い勝手が良い春日大社駐車場を利用する観光バスが激増。奈良公園周辺の渋滞緩和に寄与すべく整備されたBTだが、利用は当初の見込みを大きく下回る状況が続いている。
荒井知事はBTについて「渋滞緩和に一定の効果があった」と評価する。もっとも、観光バスの利用を増やしながら、旧市街地「ならまち」などに観光客を周遊させ、滞在時間を伸ばしてもらうための工夫は十分とは言いがたい。
■不比等さんに代わって…
荒井知事は今月、世界遺産「平城宮跡」の南に広がる積水化学工業奈良事業所跡地の全体(4・9ヘクタール)を県営歴史公園にする方針を明らかにした。
県は、史跡を横切る近鉄奈良線の線路を大宮通り付近に移設し、朱雀門の南側に「朱雀門前」駅を設置したい考え。その方向性について、来年度にも一定の方針が出される見込みだ。
来年は平城京の造営に携わった藤原不比等の没後1300年。荒井知事は「『平城宮跡からの線路撤去を俺に代わって決めるのだぞ』と、不比等さんに駆り立てられているような気がしている。来年は平城京の設計に寄り添っていろいろなことをやり、未来の奈良の礎を築く年にしたい」と展望を語った。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース