女子生徒はねた死亡事故、運転手は奇声を発し…懸念は現実になった

 9年経った今も、その横断歩道のそばのガードレールには、真新しい花が手向けられている。

 丘陵地帯に広がる、愛知県春日井市高蔵寺ニュータウン。犬を連れて朝の散歩をする人、ランドセル姿の子ども、自転車で走る高校生――。

 2012年10月10日午前8時前。近くの県立高校の女子生徒(当時16)が、一緒に登校する友達との待ち合わせ場所に向かっていた。

 いつもと変わらない朝のはずだった。

 自転車で自宅近くの横断歩道を渡った時、左側からワゴン車が時速約70キロのスピードで突っ込んだ。

 ワゴン車は女子生徒をはね、ガードレールにぶつかって横転した。

 女子生徒は頭を強く打ち、すぐに病院に搬送されたものの、この日の夜に亡くなった。

事故から2日後の現場。たくさんの花束や手紙が供えられ、女子生徒の父親は感謝の言葉を記した手紙を置いた=2012年10月12日、愛知県春日井市高森台4丁目、高岡佐也子撮影(画像の一部を加工しています)

 運転していた男(当時30)は車を降りると、奇声を発して叫んだり、田んぼを転げ回ったりした。駆けつけた警察官を見ると走り出したが、よろよろと足元がおぼつかない様子で、逃げ切れなかった。

 「ついに起きてしまったか」

 愛知県警交通指導課の鑑識担当だった大橋一仁(60)は、県警本部に出勤して第一報を受けた。かねての不安が的中した。

 現場で対応した警察官は、男の異様な挙動を理由に、「脱法ハーブ」を使っていた疑いがあると報告していた。

 車内からは、袋に入った植物片や吸引に使ったとみられるパイプ、アルミホイルが見つかった。

2021年に交通事故で亡くなった人は全国で2636人。悲惨な事故は後を絶ちません。交通事故捜査のベテラン警察官の足跡をたどって、事故捜査の現場と、事故が招く悲劇の実相に、6回の連載で迫ります。

「車の中の物を絶対に押さえて」

 脱法ハーブは社会問題化し、「危険ドラッグ」と呼ばれるようになる。吸引すると幻覚症状などを引き起こす薬物だ。製造者は成分構造を次々に変え、法規制の網目をかいくぐる。当時は路面店でも販売する業者が各地にあり、若者を中心に急速に広がっていた。

 脱法ハーブは依存性も高い。店で買ってすぐに吸引し、そのまま車を運転して事故を起こすケースが多発していた。

 吸引者による物損事故は県内でも毎週のように発生。大阪ではこの年、吸引が影響したとみられる暴走事故が起きていた。

 女子高校生がはねられた事故の一報を受けた大橋は、すぐ署に指示した。

 「酩酊(めいてい)状況を映像で撮って。血、尿、唾液(だえき)を急いで採って」

 「車の中の物を絶対に押さえて」と言い添えるのも忘れなかった。

女子生徒がはねられて亡くなった事故の発生翌日の現場。ガードレールが大きくひしゃげている=2012年10月11日午後4時31分、愛知県春日井市高森台4丁目、高岡佐也子撮影

正常な運転が困難、どう証明?

 事故や事件の新しい傾向に、どんな捜査で対処するか。

 大橋はそのときどきのテーマを定め、「自由研究」と呼んで、日々の業務の合間にシミュレーションを重ねている。このころの自由研究の対象が、まさに脱法ハーブだった。

 数カ月前から、重大事故の捜…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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