名探偵シャーロック・ホームズと助手ワトソン、刑事ドラマ「相棒」の杉下右京とその部下たち――男性同士がコンビを組む「バディもの」は多いのに、どうして女性同士は少ないの? そんな思いに応える決定的な一冊が、2020年の小説界に投下された。芥川賞作家、藤野可織さんの長編第一作『ピエタとトランジ〈完全版〉』(講談社)。身のまわりに殺人事件を引き寄せてしまう体質の名探偵トランジと、親友ピエタの物語だ。
すべては短編からはじまった
拡大する『ピエタとトランジ〈完全版〉』(講談社、本体1650円)
「ピエタとトランジ」は元々、13年に文芸誌「群像」で「8月の8つの短篇(たんぺん)」として掲載された作品のうちの一つだった。それらは、ほかの2編を加えて短編集『おはなしして子ちゃん』として刊行された。藤野さんは同じ年、3歳の女の子の視点で父と亡き母、父の再婚相手をとりまく不穏な関係をとらえた「爪と目」で芥川賞を受賞。期せずして受賞後第一作となった『おはなしして子ちゃん』で、純文学とエンタメの垣根を越えたストーリーテラーとして高く評価された。
「ピエタとトランジ」は、女子高生のピエタが、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが好きな年上の彼氏に会いに行く途中、電車のなかで転校生のトランジに出会う場面からはじまる。頭がよくて何でもお見通しのトランジに興味を持ち、彼氏に紹介しようと一緒に行ったアパートで見つけたのは、当人の刺殺体。トランジは、身近に殺人事件を引き寄せてしまう体質の名探偵だったのだ。
「名探偵」の宿命を逆手に
「私は小さいときから『火曜サスペンス劇場』とか『名探偵コナン』が好きで。見ていると、行く先々で殺人が起こるじゃないですか」。海外ドラマの「ミス・マープル」を見ていて、「マープルさん、行かはるとこ行かはるとこ殺人事件よう起こってんなあと。最初はそれを逆手に取るというか、皮肉った感じで書けたらと思ったんです」と笑う。
記事後半では、どうして女性同士のバディものを書くにいたったのか、その理由について語ります。
それから3年後の16年、編集…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル