戦国大名、大友家の家臣の妻でありながら、一軍を率いて島津軍を撃退したと伝わる吉岡妙林尼(みょうりんに)。大友家を題材にした作品を書き続ける作家、赤神(あかがみ)諒(りょう)さん(47)=東京都=の最新刊「妙麟(みょうりん)」(光文社)は、史料の乏しい主人公が驚きのストーリーで躍動する。
「大友の聖将(ヘラクレス)」「戦神(いくさがみ)」など血のしたたる凄惨(せいさん)な戦いや陰謀を描いてきたが、「大友サーガ」の5作目となる今作は一転、恋愛が物語を引っ張る。
後世の軍記物などによると、1586年、大分・鶴崎城に3千の島津軍が迫ったが、城主は主君宗麟の城にいるため、代わって妙林尼が指揮。落とし穴や堀の仕掛けなど知略を尽くして16度にわたって撃退。和睦し城を明け渡したものの、酒宴で油断させ、薩摩へ戻る島津軍を伏兵で壊滅させたという。会いたいという秀吉の申し出を断ったとも伝わるが、生没年不詳などなぞだらけだ。「秀吉のエピソードを痛快に感じ、5、6年前に構想しましたが、95%は想像です」と赤神さん。
だが、そうした抵抗戦の描写をまず期待すると、裏切られるかもしれない。主軸は、主人公「妙(たえ)」と、陰と陽を体現したかのような男性2人との恋愛だ。1人は複雑な過去を抱え、宗教対立の陰謀を巡らせて大友家に乱を起こそうとするキリシタン、臼杵右京亮(うきょうのすけ)。1人はひたすら妙を一心に思い支える人間味あふれる夫、吉岡覚之進。陰湿な姑(しゅうとめ)による嫁いびりや抵抗する義息に対し、妙が知恵を巡らせて懐柔していく様も、物語を魅力的に彩る。
司馬遼太郎はエッセー「豊後の尼御前(あまごぜ)」(「歴史と視点―私の雑記帖(ちょう)―」所収)で、「妙麟尼が、私が指揮をとります、ということが十分には理解できない(中略)たとえば逃げることもできるのである」と書いた。赤神流の物語にゆだねて読み進むと、なぜ逃げずに戦ったのか得心することだろう。
「女性が主人公なので、女性読者をかなり意識しました。歴史小説に関心がなかったり戦国好きでなかったりしても読んでくださるようにし、言葉もやわらかく書きました。戦国の時代にひたってほしい」
今作は大友家の「女武将三部作」の1作目にあたる。次作は立花宗茂の妻、誾千代(ぎんちよ)が主人公だ。(小西孝司)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル