博物学者の南方熊楠(みなかたくまぐす、1867~1941)の偉業をたたえ、民俗学や博物学といった分野で業績のある研究者に贈られる南方熊楠賞(和歌山県田辺市、南方熊楠顕彰会主催)。第34回の受賞者に選ばれた奈良女子大名誉教授(文化人類学)の松岡悦子さん(70)は自身の出産をきっかけに、民俗学と文化人類学の立場から、日本における「妊娠・出産」を探究してきた。
この賞は、熊楠の研究対象だった民俗学的分野と博物学的分野の研究者を対象に、人文部門、自然科学部門から毎年交互に選考。今年は人文部門だった。
松岡さんは大阪府生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科で文化人類学を学んだ。旭川医科大医学部准教授などを経て、奈良女子大生活環境学部教授を2019年3月に定年退職し、現在は同大名誉教授。
選考委員会の小松和彦委員長(国際日本文化研究センター名誉教授)によると、松岡さんは、女性たちが綿々と受け継いできた、産むことや子を取りあげることをめぐる経験を主題化し、民俗学と文化人類学の立場から一貫して「妊娠・出産」にテーマを絞って研究を進めてきた。
「妊娠・出産」の当事者に寄り添いつつ、個人のライフイベントが、祝い事として社会的に意味を持つようにするには、どうしたら良いか。松岡さんの研究は、その答えを見いだすうえで必須のものとなっているという。
また、著書のほかに、論文もきわめて多く、しかも看護学や助産学、社会学など多様な分野の研究誌に掲載されていることは、松岡さんの学術的インパクトの大きさを示していると評価された。
松岡さんは受賞について、「これを機に『妊娠・出産』というテーマに焦点が当てられ、妊娠・出産・育児を女性の視点からとらえ、政策立案がなされるきっかけになるのではないか、なってほしいと期待します」とコメントした。
授賞式は、5月11日午後1時半から紀南文化会館(田辺市新屋敷町)小ホール。松岡さんが「妊娠・出産でつながる人と社会」というテーマで記念講演する。定員200人。無料。申し込みは南方熊楠顕彰会事務局(0739・26・9909)か専用申し込みフォーム(https://logoform.jp/form/nAhC/507658)。(勝部真一)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル