100年以上経った古民家が連なる風景に似合う小さな丸い街灯だけが、ちらほらと旧街道沿いに散る。
人が住んでいる気配はほとんどない。古民家を改修した土産店やパン屋は営業を終え、看板がどこにあるのかも見えない。
「でんじろう」の看板だけが、店内から漏れる明かりで浮かび上がっていた。
ガラスを縦横に走る格子の向こう側に、高齢の男性が座って本を読む姿が透けている。
カフェだろうか。戸を引いて中に入る。
♪lay across my big brass bed……
ボブ・ディランの「レイ・レディ・レイ」が流れていた。
テーブルには、米国の元大統領の回顧録が数冊。「ちょっと古い本ですけどね。本は読むたびに新しい何かを感じるものです」
西国伝次郎さん(86)。愛媛県内子町にあるこのカフェの店主だ。
壁にはボブ・ディランの2023年の大阪コンサートで買ったポスターがあった。
ボブ・ディランは米国の音楽史を代表するミュージシャンとして知られる。
「ニューヨークにいた30代初め、ブラウン大学の構内であったライブに行った。ずっとファン。大阪のコンサートでは半世紀ぶりにライブで酔った」
古民家カフェ「でんじろう」は手作りのぜんざいが人気です。西国さんがここにたどり着くまで、波瀾万丈な人生の歩みがありました。86歳になった今、向き合う孤独、そして心のよりどころとは。
商社の幹部候補生、がむしゃらに働いた
西国さんは櫛生村(現・愛媛県大洲市)の農家に生まれた。村では進学が珍しいころ、大阪の高校と大学に進み、大手総合商社に入った。
ニューヨークにいた1960…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル