元官僚でコンサルタント会社社長の藤井宏一郎さん(49)は小中学生の時、米国で、突出した才能がある子ども向けの「ギフテッド教育」を受けました。しかし、帰国後は日本の学校の「同調圧力」に苦しみ、心を病んだこともあります。本当に好きなことが、自分を取り戻すきっかけになったといいます。
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父の転勤で小3の夏に米国に住み、小5の時から「タレント・ディベロップメント・プログラム」という特別教育を行うクラスに入りました。クラスメートは20人ほどで、本来は上の学年で学ぶ代数や幾何学を学んだり、シェークスピアの原文や英国ロマン派の詩を読んで劇をしたりしました。
日本の小学校では話を聴くだけの授業を苦痛に感じ、よく騒いで廊下に立たされていました。しかし米国では、年齢でクラスが決まる日本と違い、習熟度に応じてクラスが分けられており、先生も個々の能力をできるだけ伸ばそうという考えでした。授業は楽しく、孤立を感じることもありませんでした。
しかし、帰国して中2から地元の公立中学校に通うと、テストで満点をとっても英検1級に合格しても、難しい課題を出されることもなく、先生からは無視されていると感じました。学習塾で何度も手を挙げて発言すると背後から舌打ちが聞こえてくる。皆と同じことをすべきだという「同調圧力」に苦しみました。
国内トップの高校や大学でなら、様々な才能のある個性的な友人に出会えると思い、私立開成高校から東京大学法学部に進学しました。
ところが、当時は横並び競争の中、官庁や大企業などに就職し「要領よく成功する人生」をめざすのが主流でした。それにあらがいたくて、大学4年時に休学して家を出て、バイトしながら世の中のことを根源から考え直そうとしました。
ただ、周りが就職したり司法試験に合格したりするのを聞くと、焦りやプライドがわいてきます。当時はネットもSNSもなく、同じ問題意識の仲間と出会ったり、個人が情報を発信したりすることは簡単ではありません。自暴自棄になり、お酒とたばこの量ばかり増え、カウンセリングに通ったこともありました。
立ち直れたのは、好きな音楽と詩があったからです。米国を代表するロックミュージシャンのブルース・スプリングスティーンのほか、あらゆるジャンルの詩が好きでした。周りが言うしゃくし定規な「成功」ではなく、自分が本当に好きなことを追い求めようと考えました。焦りとプライドを捨てたことで、自分を取り戻すことができたと思います。
日本の同調圧力は圧倒的で、正面から立ち向かうと、いじめられたり、孤立したりします。苦しんでいる人がいれば、周りが言う「成功」を追うのをやめ、自分が本当にやりたいことを、ゆっくりでいいから探してほしいです。頭の中だけでも他人と違う自分自身を大切にしてほしいです。(聞き手・伊藤和行)
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ふじい・こういちろう 1972年、東京都出身。9~14歳に家族と米国に住み、地元の公立小中学校に通う。東大法学部を卒業し99年に旧科学技術庁(現文部科学省)入庁。2007年に退職後、グーグル・ジャパンなどを経て2014年にコンサルタント会社「マカイラ」を設立した。
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子どものための主な相談窓口
◆NPO法人チャイルドライン支援センターが運営するチャイルドライン(毎日午後4~9時)電話0120・99・7777
◆「24時間子供SOSダイヤル」電話0120・0・78310
◆いのちの電話フリーダイヤル(毎日午後4~9時)電話0120・783・556
◆児童相談所虐待対応ダイヤル(24時間)電話189
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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