アパレル産業のあり方が問われる出来事が9年前、バングラデシュで起きた。先進国向けの衣料品を作る工場が集まったビル「ラナプラザ」が崩壊し、千人以上が亡くなった。誰かの犠牲の上に成り立つ安いファッション。事故後に渦巻いた疑問の声は、その構造を変えたのか。この国の人々を見つめてきた南出和余さんに聞いた。
――縫製工場で働く女性たちの闘いを描いた映画「メイド・イン・バングラデシュ」が公開中です。字幕は、南出さんが教える学生たちが手がけたそうですね。
「2年余り前に神戸女学院大の学生から希望者を募り、2人1組で8~10分間ずつ英語の字幕を翻訳しました。現地へのスタディーツアーも実施し、女性たちが普段着ているサリーなども見てもらいました。現地の工場で作っているのは自分たちのためでなく、私たち先進国向けの商品だと体感してもらうためです」
「日本では衣料品はほぼ輸入に頼っており、バングラデシュは中国、ベトナムに次ぐ輸入先です。でも生産地と消費地は遠く離れ、自分たちの服を、誰が、どんな風に作っているか、消費者が意識する機会はほとんどない。生産者側も同じ。現地の工場で働く若者と話しても、どこでどう消費されるかにはあまり関心がありません。それを変えるきっかけになればという思いからでした。工場で働く人たちとも対等な人間同士として交流したことで、学生たちのイメージはいい方向に変わったようです」
――身近に感じられるようになったんですね。日本もかつては国内で生産していたのに、なぜ輸入に頼るようになったのでしょう。
「アパレルは完全な機械化が難しく、人の手が必要とされる産業なのです。このため古くから、その時々の『安い労働力』に頼ることで成り立ってきた面がありました。例えば、明治時代に日本の繊維産業を支えたのは、地方から出てきた女性たちでした。現代ではグローバル経済の発展で、縫製工場がより人件費の安い国へと移動していきました」
「バングラデシュでは、1990年代に縫製業が国家の一大産業になり、2000年代に大量生産・大量消費型のファストファッションが世界的に流行すると、安い労働力を求めてグローバル企業が押し寄せました。今や中国に次ぐ規模の衣料品の輸出国です」
縫製工場では、貧困層の女性が働いています。ラナプラザの事故後、縫製工場の労働環境は改善が進んでいますが、女性たちの職場を「奪う」状況も生み出した、といいます。
――映画にも、縫製工場で働く女性たちが描かれていますね。
「バングラデシュでも、縫製工場は、長時間労働の割には賃金が低く、できれば『働きたくない場所』です。働くのは、他に選択肢のない貧困層の女性たちです」
「Tシャツ2~3枚分の額の…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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