安倍晋三首相は4日の所信表明演説で、冒頭に昭和22年に現行憲法下で初めて開かれた国会に触れ、最後は衆参両院憲法審査会での議論を「国民への責任」だと訴えて締めくくった。首相の言葉には、7月の参院選で改憲議論の必要性を争点の1つに掲げて勝利した自負がにじむ。
北朝鮮の弾道ミサイル発射など日本の安全保障環境は厳しさを増しているが、相変わらず国会の改憲議論は停滞し、国民の理解も広がりを欠く。
改憲手続きには、改正原案を衆参両院で3分の2以上の賛成で発議した上で、国民投票で過半数を得る必要があるが、首相の自民党総裁の任期は令和3年9月末までで、あと2年弱しかない。日程的に改憲への道のりはとても険しい。
それでも首相の改憲への信念は揺らがない。
「困難な現状にあることは認識しているが、決して乗り越えられないものではない」。首相は演説で、第一次大戦後のパリ講和会議で牧野伸顕(のぶあき)全権代表が各国代表団の強い反対を受ける中、人種差別撤廃を主張した際の言葉を引用した。
牧野は明治の国造りの礎となった大久保利通の息子で、日本外交の黎明期(れいめいき)である20世紀初頭、国際協調を重視する政治家として活躍。戦後は日本国憲法の作成に関わった。
一方、今の首相は米中露各国首脳と信頼関係を築き、「自由で開かれたインド太平洋」構想や国境を越えたデータ流通など国際ルールづくりを主導する。経済再生などの道筋をつけた今、首相は牧野の姿と自らを重ね、政治家の集大成として宿願の憲法改正に挑もうとしている。
改憲は究極の議員立法と位置づけられる。なぜ今、憲法改正が必要なのか、首相には国民により丁寧に語る姿勢が求められる。
首相は11月20日、通算在職日数で桂太郎を抜いて憲政史上歴代1位となる。安倍内閣の支持率が堅調に推移する中、その首相が粘り強く呼びかけてもなお、野党が改憲議論を拒み続けるならば、首相は憲法改正を争点に衆院解散を断行し、国民に信を問うという選択肢も出てくるはずだ。(小川真由美)
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