3月に朝日新聞デジタルで配信した連載「この差はなんですか? ジェンダー不平等の現在値」では、給与や昇進、非正規雇用など、さまざまに横たわるジェンダー格差について、当事者たちの声やデータを掲載しました。
たくさんの反響があり、今回は「官製ワーキングプア」と指摘されている非正規公務員の待遇を報じた記事への意見をまとめました。(まとめ・伊藤恵里奈)
時給1027円、10年変わらなかった
元国立大学事務補佐員の女性
私は2010年代後半まで10年以上、地方の国立大学で事務補佐員として、非正規雇用で働いていました。
「公務員のような職場での一例」として私の経験を話します。
仕事は留学生に関わる事務全般で、留学生はもちろん、日本人学生、学内の教員や他部署とのやりとりも多く、大変充実した仕事でした。
身分は「非正規」「事務補佐員」でしたが、長きにわたって勤めて、英語力もTOEICでは900点以上、IELTSでは7.0を取得し、パソコンに精通していることもあり、学内から頼りにされていた自負もあります。
でも、私の時給はずっと1027円のままでした。
それでも英語が話せるので、他の部署の事務補佐員より100円ほど高い時給だったとは思います。でも時給が1027円では、手取りはせいぜい10万円程度、ゴールデンウィークがある5月などは10万円を切ることもありました。
物価の安い地方とはいえ、一人では食べて行けない給料でした。実家で親と暮らしており、親の年金でなんとか食べていける感じでした。親は私を養っていると自覚していました。
「えらいね。勉強が好きなんだね」
「これではいけない」と思い、「大学院の修士号を取れば何か変わるのではないか」、「せめて非正規でも『教員』として雇ってもらえれば」と考え、勤務3、4年目から海外の大学院の通信修士課程で学び始めました。
円高でお金のない私が学位を取るには、むしろ通信教育が最適だったのです。
日中の勤務時間以外は死に物狂いで勉強し、在学期間ギリギリの5年でなんとか卒業することができました。卒業後は関連する学会に所属し、学会での発表や研修にも積極的に参加しました。
しかし状況は何も変わりませんでした。必死に大学院で勉強し、学会で発表もした私に対して上司は「えらいね。勉強が好きなんだね」と言ったのみでした。
同じ頃に学内で「留学生を教員として雇う」という動きがありました。私がずっと接してきた留学生が「助教」の教員になることになりました。
それ自体は「国際化」を標榜(ひょうぼう)する世の流れに沿うものとして否定はしません。ですが、たまたまコピーミスとして放置されていた「その『学生教員』への給与をいくらにするか」という上司のメールのやりとりを見て、私はもうここでは働けないと思いました。
その額面は私の3倍でした。
大学職員を辞めた後、派遣会社に登録しました。今の会社で働いてそろそろ5年目になります。現在も非正規の身分には変わりませんが、今の時給は当時の倍以上です。
仕事は短時間で終わるようなことばかりで、全然やりがいはありません。英語を使うこともほぼありません。
留学生のためを思って、学内を駆け回ってあれこれ必死に働いていたあの頃の仕事が、今の半分以下としか評価されていなかったのかと思うと、今でもとても悲しい気持ちになります。
時給1027円で働こうとはもう思えませんが、それでもやりがいがあったあの頃を、今でも懐かしく思ってしまいます。
女性の失業、「軽んじられている」
大阪府で非正規公務員をしている30代女性
身につまされる思いで記事を読みました。私も正社員でしたがパワハラで辞めざるを得ず、再就職先は非正規雇用でそのまま働き続けています。
幸い時給は最低賃金より高いですが、女性の失業問題が軽んじられているとはずっと思っていました。
結局のところ、女性は誰かに養われている(独身なら父親、既婚なら夫)という前提で社会が作られており、それを元にした賃金設定になっていると思います。
女性が一人で自立して生活することを誰も想定していないまま、今日まできてしまったような気がします。せめて同一労働同一賃金が実現して欲しいと切実に思います。
「非正規を一掃」とは
非正規雇用者のための労働組合「あぱけん神戸」の内藤進夫さん(74)
アルバイトや派遣、パートなどの非正規雇用の労働組合「あぱけん神戸」を2005年に開設して、活動しています。
いわゆる「官製ワーキングプア」問題は、戦後の労働運動の高まりと敗北の時代から現在まで、低賃金と差別の固定化のくり返しで、何も解決されていません。
いまだに政府も各自治体も、官製ワーキングプアを生み出す行為を繰り返していますし、対する大手官公労働組合やその全国組織も公務非正規雇用と差別待遇については、ほぼ取り組んでいない現状です。
公共サービスの現場や最前線で働いているのに、身分の保障もなく、30年以上も低賃金(月収約15万円、年収200万円程度)に置かれているのが、役所で働く非正規職員です。その大半が女性です。
20年に地方公務員法が改悪されて、会計年度任用職員制度が導入されてから、ますます状況が悪化しています。当初から3年もしくは5年での雇い止め(解雇)や、正当な理由を示さない「更新拒否」が続発しています。
安倍政権は働き方改革を掲げて、「非正規という言葉を一掃する」と豪語していました。しかし、今も非正規労働者は増加の一途です。
非正規公務員の常態化 是正すべき
広島県の元公務員和田行司さん(69)
「『もう限界』心身を削って月収14万円 官製ワーキングプアの現実」を読みました。
相談業務などの対人折衝の窓口は、かなりの負担やストレスを負います。そのような激務を非正規に任せている正規職員の上司の多くは、業務の内容や改善などにはたいして関心を持っていないだろうと思います。正規職員こそ、窓口の近くに座って、来庁者の話に耳を傾けるべきなのです。
継続的に非正規職員を配置している部門は、本気で正規職員の配置を人事当局に要求しているのでしょうか。
3年で雇い止めをして新しい非正規職員を採用するのではなく、新たに正規職員を配置するよう勧告をすべきです。人事当局も各部門の人員配置にきちんと目を配ることが必要です。
役所はすぐに「財政難」という言葉で片付けたがるが、これは思考停止状態。
役所の人事委員会は、職員の給与改定を勧告することが本業になっています。正規職員のみならず非正規職員の待遇についても、改善を勧告し、さらに恒常的に非正規職員に依存する現場では、新たに正規職員の配置を勧告すべきです。
職員の労働組合も、自分たち正規職員の待遇改善をもっぱら要求するばかりでなく、非正規職員の部門における業務のあり方について交渉しなくてはいけません。また、非正規職員の組合加入にも積極的に動くべきです。
「公務とは何か」
「民間の活用」などといって、効率性ばかり追求することは、非正規職員の常在につながります。その結果、「本来の公務とは何か」という理念が希薄になっていく。法令順守、コンプライアンスを役所自身が見失っていると言わざるをえません。
記事にあった婦人相談員のように、専門的な技能を身に付けた人たちを、正規職員として採用を考えなくてはいけない。
正規職員を減らした穴を非正規職員で埋めている状況に、目を向けて改善していかないと日本は立ちゆかなくなると考えます。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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