「怠け者はいねぇが~」
昨年の大みそかの夜。秋田県男鹿市の各地で、大きな声が響いた。声の主は山の神の化身とされるナマハゲ。ユネスコの無形文化遺産に登録され注目を集めたものの、実施する地区は減っており、模索も続く。
午後7時前。男鹿市脇本の大倉地区の住宅で家族とナマハゲが向き合った。「テレビゲームばっかりやってないか? ユーチューブばっかり見てないか?」とナマハゲ。子どもが答えに詰まると、家族が「頑張ってますから」といって、ナマハゲに酒が振る舞われ、飲み干すと次の家へと向かった。
ナマハゲに扮し、地区内の約40世帯をまわった吉田和仁さん(40)は「今年も無事に終わってホッとしている。喜んでくれた家も多かったようで、よかった」と話した。
「男鹿のナマハゲ」は、山の神の化身のナマハゲが大みそかの夜に里におり、家の中や玄関先で大声を出したり、戸をたたたりして災いや厄を払い、怠け心を戒め、新しい年の家内安全や無病息災、豊作豊漁を祈る民俗行事だ。
市内にある資料館「なまはげ館」の解説員、太田忠さん(70)によると、1811(文化8)年に菅江真澄という紀行家が男鹿半島を訪れ、実際にナマハゲを見たという文献資料が残っており、江戸時代以前に始まった行事と考えられている。2018年、「来訪神:仮面・仮装の神々」の行事の一つとしてユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。
映画にもなった「泣く子はいねぇが」というフレーズや、怖がって泣きじゃくる子どもの様子がテレビで流れると、県外から「子どもがかわいそう」と苦情がくることもあるという。
太田さんは「子どもには泣けば許してもらえるという『甘え』もある。すぐ泣かず、強い人間になってほしいとの意味も込められているそうです」と説明する。
地元の農協や様々な商品に名前やイラストが使われるなど浸透しているが、各地の伝統行事と同様、ナマハゲの担い手となる若者不足に悩まされている。男鹿市によると、18年末には市内92の町内会が実施したが、23年末に「実施予定」と答えたのは68だった。
市では面や衣装を更新・補修する際の費用を一部補助するなど負担軽減を図っているものの、実施する地区が減っている背景には受け入れを望まない家が増えている事情もあり、一筋縄ではいかない面もある。
大倉地区でも10年ほど前に一度途絶えたが、吉田さんたちの世代が18年に復活させた。「年末がしまらない。みんなが集まる機会がなくて、さみしいね」。そんな気持ちからだった。
ナマハゲは面や衣装、作法などが地区ごとに細かく決まっている。「まずはやっていくことが大事。正式な作法はおいておこう」と吉田さん。手探りで復活させた。「もしガラスを割ったら呼んでもられなくなるから」と、戸は強くたたかない。「嫁は一番早く起きてるか?」といった嫁や子に昔ながらの役割を押しつけるような「時代錯誤なことも言わない」という。
再開後、孫が「ナマハゲを見みたい」と年末に来るようになったと喜んでくれる一人暮らしの高齢者も複数いる。吉田さんは言う。
「最後は『来年もまめでろよ(元気でな)』って帰ってくる。イベントやお祭りみたいな感じでもいいじゃないですか」(岩田正洋)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル