横浜市中区のJR関内駅南口前。まもなく移転してしまう市庁舎の前に、男性(44)は立っていた。
「あー、ビッグイシュー、覚えていってください」
カラフルなお手製の看板を傍らに、軽快なかけ声で道行く人に呼びかける。
隔週刊で一部450円。「ビッグイシュー」はホームレスの人たちが路上で販売し、売り上げの一部を収入として、自立を支援する雑誌だ。男性は昨年6月ごろから、関内駅や戸塚駅前の路上に立ち、販売を続けてきた。
昨春まで訪問介護の仕事に携わっていたが、うつ病を患い辞めた。それまで別の仕事をしていたこともあったが、心臓に持病があり長く続かなかったという。
「職業訓練のつもり」で同誌の販売を始めた。「自分で考えて積極的に動ける」点にやりがいを感じているという。独特のかけ声も、毎号の目次を書き込んだカラフルな看板も、男性のアイデアだ。
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隔週刊の同誌を、毎号170冊ほど売ってきた。
だが新型コロナウイルスの感染が広がり、2月下旬ごろから駅前の人通りがめっきり減った。緊急事態宣言が出てからは、1号あたりの売り上げが130冊ほどに減ってしまった。
発行する会社も経営が苦しく、4月から同誌が100円値上げして450円になったことも響いた。
道行く人から心ない声をかけられ、「嫌われてるのかな」と落ち込むこともある。一方で、感染が広がってからも買いに来てくれる人がいる。「いつも頑張ってるから来たよ」「こんな時だからこそ」。そんな言葉に救われた。
楽しみにしているのは、常連客との雑談だ。生活への不安を耳にすることが増えた。
心の病とたたかってきたある客は、やっと職に就いたのに、感染拡大の影響ですぐに時短勤務になってしまい、肩を落とした。
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別の高齢の客は出かける回数を減らすため、スーパーではいつもより多めに食料を買うが、「買い占めしていると思われるのでは」と肩身の狭い思いをしていると語った。
「私のことを心配してくれる方が多いですが、皆さんまずはご自身の心配をして下さい」
そう言ってはにかむ。
生活は苦しいが、変わらず路上に立ち続ける。
「皆さん、落ち着いたら買いに来て下さい。待ってますから」
男性は月、火、金曜日の午後に関内駅南口で、水、木曜日の午後は戸塚駅の西口か東口で販売しているという。(土屋香乃子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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