地元の不動産屋に案内されて初めて山梨県北杜市の標高600メートルにあるこの家に来たとき、ここだ!という運命のようなものを……、まるで感じなかった。
70坪の敷地は、長く放っておかれて草ぼうぼう。築40年の平屋は古民家の味もなければ、モダンなデザインもない。
北杜市は東京都心から車で2時間ほどでアクセスできるリゾートとして知られる。人口2万2千。バブルの時代、市北部の清里には観光客が殺到したときもあった。今は落ち着いた高原の雰囲気もあり、別荘地としてだけでなく移住者にも人気のある町だ。
目の前の家は、そんな町にあって2年近く買い手がつかず、忘れられた存在だった。室内はオール畳で、山にあるのに昭和の海の家を思い出させた。「憧れの別荘地ライフ」というにはほど遠い。
ただ、すべての欠点を覆すだけの長所が一つだけあった。この一点が僕の心をとらえて離さなかった。
眺めだ。
周囲から一段高くなっている敷地からは大パノラマが広がっていた。眼下には水をはった田んぼが青い空を映してキラキラと輝き、その向こうには鳳凰三山、甲斐駒ケ岳といった南アルプスの名だたる峰々が連なり、圧倒的な質量で迫ってくる。視線を右にやれば、八ケ岳連峰が緑の裾野をたおやかに広げている。
これまでの節電生活で身をもって知ったのは、快適な暮らしを化石燃料に依存せず実現するためには、住む家の立地がとても重要になるということだ。晴天率の高い北杜市で、この場所ならば、太陽の光に恵まれながら暮らせるのではないか。家はどうにでもなるけれど、立地だけは後からどうあがいても変えられない。
この物件を案内してくれた地元の不動産屋の最大のアピールポイントは景色ではなく、「補修なしで、明日からでも住めます」ということだった。地元の人はこの神々しい景色を毎日見慣れすぎているのだ。
不動産屋の言う通りで、風呂、キッチンなどの水回りは新品にリフォームされ、畳やふすまもきれいな状態になっていた。
SDGsもカーボンニュートラルもじぶんごと。誰もが当たり前に使っている電力会社の電気やガス、灯油といったライフラインを自ら断って、太陽光、太陽熱、薪の再生可能エネルギーで暮らしを成り立たせたい。節電道に踏み入ってもうすぐ10年の記者が八ケ岳南麓で真剣に、楽しく、時にちょっと苦しみながら挑戦するエコハウス「ほくほく」プロジェクトの話です。次々降りかかる災いを、福に転じられるのか。本格的なリノベーションが始まりました。
暑いし寒い 東京に逃げ帰った苦い思い出
「確かにこのまま住めるかも…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル