宿題が終わっていなかった長男を叩いた父親を逮捕、「しつけ」と「虐待」の線引きは?(弁護士ドットコム)

宿題が終わっていなかった子どもを叱る親……。どこの家庭でも見かけるような光景ですが、そこに体罰が加わった場合は、罪に問われる可能性があります。

今年の夏、兵庫県尼崎市で、夏休みの宿題に出された工作の進み具合をたずねたところ、あいまいな返答をしたとして、小学6年の長男の頭を平手で数回、はたいた父親が暴行容疑で逮捕されました。神戸新聞などの報道によると、父親は「教育の一環だった」と供述しているとのことでした。

このニュースに対して、「この程度で逮捕されたらしつけができない」といった声もネットで多くみられました。実際、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレンが2017年7月に全国の大人2万人を対象に行なった調査によると、子どもに対するしつけのための体罰を容認する人は約6割にのぼりました。

しかし、2018年から今年にかけ、親からの虐待によって、東京都目黒区で5歳の女の子、千葉県野田市で10歳の女の子が死亡するなどの事件が相次いで起こりました。いずれのケースでも「しつけ」と称した暴力がふるわれた結果でした。

そこで、親の体罰を禁止することなどを盛り込んだ児童虐待防止法と児童福祉法の改正案が来年4月から施行されます。国の動きに先駆け、東京都でも今年4月から、保護者による体罰禁止を盛り込んだ児童虐待防止条例が施行されています。

「しつけ」と「虐待」との境界線はどこにあるのでしょうか。半田望弁護士に聞きました。

●「お尻叩き」や「押し入れ」は伝統的に「懲戒権」の範囲だが…

現在も「しつけ」として親による体罰はあちこちの家庭で行われていますが、法的にはどのように考えればよいのでしょうか?

「親の子に対する『しつけ』については 、民法822条が『必要な範囲で自らその子を懲戒』することができると定めており、法律上は同条が根拠となっています。

もっとも、民法では『懲戒権』の定義や『必要な範囲』の内容については定められていないため、いかなる行為が『必要な範囲での懲戒権の行使』となるのかは明確ではありません。

懲戒については、『子の非行・過誤を矯正善導するために、その身体または精神に苦痛を加える制裁』であるとされています。ここから、単なる口頭での訓戒(説教)にとどまらず、厳しい説諭や『愛の鞭』としての有形力の行使(平手打ちなど直接的な行為)も一定の範囲では許容されている、と理解する見解が多いと思われます。

伝統的には、お尻を叩くとか、押し入れに(短時間)閉じ込める、という行為は、当該行為を行う必要がある場合には、親の懲戒権の範囲内と理解されているものと思われます。

もっとも、懲戒権の行使はあくまでも子の監護教育目的のために認められるものです。懲戒を親の権威づけに利用したり、感情にまかせて暴力を振るうことは懲戒権の行使には当たりません。

また、『必要な範囲』を逸脱し過度な懲戒を加えた場合にも、刑法上の暴行罪・傷害罪や逮捕監禁罪に問われたり、民法上の損害賠償の問題や親権の停止・喪失の原因になることもあります」

●体罰を全面的に禁止している国は世界で増加

「必要な範囲」の判断が難しいです。

「懲戒権の行使として許されるかどうかの基準となる『必要な範囲』の解釈は、その時代の一般的社会通念によって定まると理解されています。

民法822条が制定された当時と現在では、未成年者に対する体罰や暴力の社会的な捉え方が大きく変化していますし、また医学的知見からも未成年者への直接の暴力のほか、未成年者に誰かが暴力を振るわれているところを見せることも、未成年者の発達に悪影響を及ぼすことなども明らかになっています。

我が国も批准する『児童の権利に関する条約』(子どもの権利条約)19条1項は、次のように規定し、締約国に対し体罰を禁止する措置を講じるよう求めています。

『締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。』

また、国連子どもの権利委員会は、1998年、2003年、2010年の3度にわたり、日本に対し、家庭を含む全ての状況において、体罰を禁止する措置を法律で定めるよう勧告を行っているほか、国連人権理事会や拷問禁止委員会、自由権規約委員会の各審査においても体罰禁止の明文化の勧告がなされています。

世界的に見ても、教育目的を含む体罰を全面的に禁止した国は、ヨーロッパや南米諸国を中心に1980年代から増加しており、現在では54カ国が体罰の禁止を法律で定めています。国際的な視点からも子どもに対する体罰は否定されるものと理解すべきでしょう。

民法制定当時には懲戒権の行使としての体罰が当たり前であったかもしれませんが、現在でもそのように理解してよいのかは慎重に判断されるべきです」

●来春から施行される「体罰禁止」の法律、その狙いは?

来年4月から、「親権者は、児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」として、親による体罰が禁止されます。

「我が国でも児童虐待防止法と児童福祉法が改正され、しつけに際して体罰を加えることを禁止することや、民法822条の見直しの検討が行われることになりました。

体罰を法律で禁止することは、世界の潮流や現在の体罰を巡る議論をふまえると必要なことで、私としては歓迎すべきことと考えます。

しかしながら、我が国ではまだ体罰を肯定する考えも根強く、法律ができたからといって、体罰がすぐに無くなるとは考えにくいことも事実です。

もっとも、これまでも『懲戒権』の名目で明らかに必要かつ相当な範囲を逸脱した暴力が子どもに対して加えられ、子どもが亡くなるなどの不幸な結果が後を絶ちませんでした。

また、暴力が日常的になり、体罰を受けて育った子どもが体罰を当たり前と考えて自分の子どもにも体罰を加えるという負の連鎖も少なからずあったものと思われます。

懲戒権の行使という建前がある以上、児童相談所や警察も行き過ぎた暴力にたいして適切な介入がし難かった可能性もあり、法律で体罰を禁止することは必要なことだろうと考えます。

なお、体罰禁止が明文で定められたからといって、一切の懲戒権を行使できなくなることはないと考えます。子どもの人格や尊厳を守りつつ、許容されるべき懲戒権の行使はどこまでなのか、ということは今後議論がなされる必要があります。

体罰は力で子どもを支配するものですが、このようなやり方での教育は、子どもの健全な発達に繋がるものではありません。法律で体罰の禁止を明文化すること、子どもに対する指導や教育の在り方を見直すきっかけになればと思います」

【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。交通事故や消費者被害などの民事事件のほか、刑事弁護にも取り組む。日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、接見交通の問題に力を入れている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:http://www.handa-law.jp/

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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