「とら」といって思い浮かべる一つに「寅(とら)さん」がある。言わずと知れた、昭和から平成にかけて、お正月とお盆の封切りが定番だった国民映画「男はつらいよ」の主人公だ。渥美清さん演じる寅次郎は、シリーズ48作の中で、東海3県の各地を旅している。寅さんにとって旅とは何だったのか。「完全版『男はつらいよ』の世界」の著者で映画評論家の吉村英夫さんに聞いた。
「男はつらいよ」のロケ地は、愛知、岐阜、三重の3県で合計12カ所ある(別表、吉村さんまとめ)。「柘植駅(三重県伊賀市)は、渥美さんや山田洋次監督は足を運ばず、スタッフだけで撮影したようです。東海3県で本格的なロケは、第3作の湯の山温泉と四日市市の磯津、第39作の伊勢志摩と、なぜか三重県が多い」
吉村さんは伊勢志摩のロケにエキストラとして参加している。「松竹から連絡が来て、寅さんファン10人ぐらい集めてくれ、と言われて。二見浦でお正月のシーンを撮るから、いい服を着てくれ、と」。日当は1300円。「妻は、ラストシーンで自分の和服姿がちらっと映った、と言っていますが」と笑う。
岐阜県でのロケも印象的だ。第38作の岐阜市の長良川河畔、第45作の下呂温泉は「寅さんが啖呵(たんか)バイ(露天商で販売することの隠語)をするシーンが記憶に残ります」と吉村さん。第44作のロケ地・恵那峡には記念碑が残る。
ちなみに、映画の中で寅さんが訪れていないのは、富山県と高知県だけだ。寅さんは、なぜ、全国を旅したのか。
「放浪と定着の相互憧憬(し…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル