「寅さん」でおなじみの東京・柴又で、景観維持に難題が突きつけられている。帝釈天参道に交差する都道(柴又街道)の拡幅により古い木造店舗の建て替えが進みそうだからだ。一帯は「風景の国宝」といわれる国の重要文化的景観に選定されている。文化庁は「街並みが維持されるのか」と気が気でない。
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京成電鉄の柴又駅から帝釈天までの約200メートルの参道には、明治から昭和に建てられた町屋が並び、さながら映画「男はつらいよ」の風景そのまま。さくらが出迎え、寅さんとすれ違いそうな気になる。
山田洋次監督がここを舞台に選んだ一番の理由は景観だった。戦災で東京の下町が焼け野原になるなか「あの一帯は奇跡的に残ったでしょ」。昔ながらの街ゆえ、戦後の経済万能主義に染まりきらぬ、人情が残る土地として描かれた。
文化庁は地元葛飾区の申請を受けて2018年、参道や寺社、旧家など一帯131ヘクタールを重要文化的景観に選定した。全国70カ所の選定地域のうち、都内ではここだけ。手こぎ舟が客を乗せて渡った「矢切の渡し」が近くにあり、そこへ向かう道の一つとして農村の中に帝釈天の参道がつくられた。そんな街の成り立ちの歴史は今もうかがえる。
だが東京都は同じ年、帝釈天付近の柴又街道580メートルを現在の幅11メートルから15メートルに広げようと、事業説明会を地元で開いた。もともと、この拡幅計画は、戦後間もない1947年に当時の戦災復興院が立てたものの、ずっと実現しないできたものだった。それが東日本大震災後の防災強化もあって動き出した。
都第5建設事務所の今成達郎・前工事課長は「大型車がぎりぎりすれ違える程度の幅しかない。拡幅して安全性を向上させるとともに、電柱を地中化して景観をよくします」と語る。街道に面した建物は削るか、後退して建て直すしかない。帝釈天の参道と柴又街道が交差するあたりは高さ16メートル、容積率400%までの建物を建てることができる。建て直すと3~4階建てのビルが並ぶかもしれない。都は電柱地中化で景観がよくなるというが、拡幅によって街道沿いがコンクリート造りの中層建築に変われば、柴又の景観は大きく損なわれる。
それを文化庁は恐れる。「建て替えられるたびに中層の建物が建ち、いままでの低層木造の街並みが変わってしまうのではないか」。そう下間久美子主任文化財調査官は心配する。
古い飲食店が並んだ柴又駅前は、京成電鉄が今年、商業施設を開いて雰囲気が変わってしまった。駅前を圧迫するように建物が建ち、寅さんと見送るさくらの像が小さくなった。「僕はできれば駅前は小さな公園にしてほしかった」と山田監督はがっかりする。
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駅舎が88年に改修される際…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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