湖を包み込む木々の緑がサラサラと揺れる。涼しい風が、こもれびの間を抜けていった。
富士山の北東のふもとにある山中湖は、河口湖や西(さい)湖などと並ぶ富士五湖の中でも「最も富士山に近い湖」と称される。湖畔の標高はほぼ1千メートル。東京から2時間ほどで来られるリゾート地だ。
観光の玄関口、旭日丘(あさひがおか)の交差点は南側の湖畔、富士山から延びるすそ野の先にある。白鳥をかたどった遊覧船や、湖にザブンと飛び込む水陸両用バスの発着地があり、コロナ禍でも子どもを連れた家族連れなどでにぎわっていた。
かいわいは森の中の別荘地だ。富士急行(本社・山梨県富士吉田市)が管理運営し、総面積は東京ドーム約94個分の約440ヘクタールに及ぶ。別荘用の敷地が約3200区画と、富士山を眺めながらプレーできるゴルフ場がある。
この富士山麓(さんろく)の別荘地をめぐって昨年11月、大事件が起きた。地元山梨県の長崎幸太郎知事(52)が、富士急行にはこれまで通りには土地を貸せないと言い始めたのだ。別荘地は90年余りの歴史があるが、土地自体は県のもので、富士急行は別荘用の区画を整備して利用者に転貸している。
県との賃貸借契約は2017年に結び直されたが、年額3億円余りの賃料が安すぎると、県民が県を相手に住民訴訟を起こした。県は適正額だと主張していたが、19年に知事に就任した長崎氏が大転換した。賃料額は安すぎる、安すぎる金額で結ばれた契約は地方自治法に照らせば、ただちに「違法無効」になる――と主張した。
富士急行は猛反発し、県を相手に土地を借りる権利があることの確認を求める訴訟を起こした。知事も反訴の準備を進め、訴訟合戦に発展する雲行きだ。
世界遺産・富士山のふもとで「山梨の乱」が起きている。富士五湖の一つ山中湖畔にある別荘地をめぐり、別荘地を経営する富士急行に対して、土地を所有する山梨県がこれまで通りには貸せないと主張したのが発端だ。なぜ乱は起きたのか、どこへ向かうのか、富士山麓(さんろく)はだれのものなのか。全5回の連載です。
県のホームページには知事の…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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