10月11日、朝日地球会議のセッション「問いでつながる 対話するためのヒント」に登壇する英文学者の小川公代さん。「ケアの倫理」で注目を集め、『世界文学をケアで読み解く』をこのほど出版した。
村上春樹の『ドライブ・マイ・カー』から、オスカー・ワイルド、バージニア・ウルフ、大江健三郎まで、古今東西の文学作品を「ケア」を切り口にとらえ直し、現代社会を照射してきた。その視点には、小川さん自身が直面する母親のケアの経験が影響しているという。
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今年で8回目を迎える地球会議で、新言論サイト「Re:Ron(リロン)」との連携セッションが10月11日に開かれます。リロンのアドバイザーの哲学者・永井玲衣さんがコーディネーターを務め、情報学研究者のドミニク・チェンさん、英文学者の小川公代さんとともに語り合います。
「現代はあらゆるものが数値化され、人間が見えなくなっている。拙速に答えを求められ、葛藤や内面世界の豊かな営みが可視化されず、存在しないものにされている。そんな今の社会の不条理を暴きたい」と小川さんは話す。
「ケアの倫理」は、米国の発達心理学者のキャロル・ギリガンが提唱した考え方。個の自立を重視する新自由主義思想に対して、他者と自己を分離せずに関係性を結ぶ「相互依存」を基盤としている。
「ケアの倫理には、他者に向かうケアと自分に向かうケアの両面がある。両方の利益をとろうとすると自分のケアと他者のケアの間に溝ができて引き裂かれ、葛藤を生む。その葛藤を持ち続けていることがケアの倫理なんです」と小川さん。
キーワードとして掲げるのは「ネガティブ・ケイパビリティ」だ。英国の詩人ジョン・キーツによる言葉で、「相手の気持ちに寄り添いながらも、分かった気にならない『宙づり』の状態、不確かさや疑いのなかにいられる能力」を意味し、ケアの倫理と通じる概念だという。
「自立することや自己と他者を分ける人が成熟していると考えられがちだけど、それだけが重要なのか。そこには切り離せないものがあり、できるだけ留保する生き方もある」
アリスにこめられた作者の問い、母に語ると
そうした葛藤や複雑さを共有することができるのが「物語」であり、そこから生まれる「対話」の重要性を小川さんは説く。
「『正義の倫理』は正しさで…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル