通訳ガイド・細川治子
しこく宝島
香川県小豆島の小高い丘に絶景のパワースポット、富丘八幡神社がある。長い石段の参道を登った先に社殿があり、眼下には、瀬戸内海の多島美が広がる。
神社は千年以上の歴史をもつ神社として島民に親しまれてきたが、最近、若者の姿が目立つようになった。地元・土庄町出身の漫画家・山本崇一朗さん原作のアニメ「からかい上手の高木さん」の舞台として、ファンの聖地巡礼ルートになっているのだ。今春は全編小豆島ロケのドラマや映画の公開も控えるなど、高木さん人気は広がりを見せている。
このブームを受けて、神社も動いた。アニメツーリズム協会(東京)とのタイアップでアニメのイラストをあしらった御朱印(500円)を作り、今年から参拝者に授けている。「神社に来るきっかけを作りたいと思って」と宮司の高尾美紀さん(40)は説明してくれた。女性宮司というのが珍しくて話を聞いたら、多彩な経歴の持ち主だった。
もともと神職にも島にも、ゆかりはなかったという。ジャズシンガーを目指して20歳で茨城県土浦市から上京。歌手活動をしながら東京の歓楽街・浅草エリアを再生する地域マネジメントの仕事に携わった。そこで、三社祭で有名な浅草神社と接点ができた。夏にも参拝客を呼び込む試みとして「夏詣(なつもうで)」の普及を手伝い、「神社には地域のアイデンティティーが詰まっている」と実感したという。
小豆島には観光の仕事で通ううちに人の温かさに触れ、「恩返しをしたい」と移住を決め、2020年に小豆島町の地域おこし協力隊員になった。ここでも夏詣に取り組んだことが人生の転機になった。
「宮司になる気はあるか」。後継者を探していた富丘八幡神社の宮司に打診された。「不安よりチャレンジしたい気持ちが勝り」、研修を受けて宮司の資格を取った。さらに、別の神社の禰宜(ねぎ)を務める夫の逸人さんにも出会い、結婚した。神社がまつる神のご利益か、子宝も授かった。
過疎化、高齢化が全国に先駆けて進む島で、神社をどうしたら残せるのか。高尾さんは、かつての自分のように、島のファンやリピーターといった「関係人口」を増やすきっかけを作ることが鍵だと思っている。美しいロケーションを生かした神前結婚式や、島内7社の御朱印を集める七福神めぐりツアーなど、アイデアは尽きない。「しがらみがない『よそ者』の私でしかできないことをやりたいです」。力強く語る姿が印象的だった。(通訳ガイド・細川治子)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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