厚生労働省は16日、性別欄から男女の選択肢をなくした履歴書の様式例を新たに示した。生まれた時の体の性と異なる性で生きるトランスジェンダーの人たちから、性別欄を削除する要望を受けて対応した。ただし削除ではなく、任意で書き込んでもらう形にした。
様式例に法的な拘束力はなく、企業のエントリーシートなどの参考にしてもらうためのもの。新たに示された様式例の性別欄は空欄で、自由に記述する。「記載は任意です。未記載とすることも可能です」との注意書きもつけている。
厚労省によると、採用時の女性差別をなくす観点から性別の把握が求められる場面があることなどを考慮したという。配偶者の有無、扶養家族の人数、配偶者の扶養義務、通勤時間を書く欄は削除した。
厚労省は従来、日本規格協会(JIS)の様式例を推奨してきた。だが、性別欄を問題視した支援者らが昨年夏、性別欄の削除を求めるオンライン署名を集め、経済産業省などに提出。この動きを受け、JISが各メーカーが参考にする様式例を取り下げた。このため厚労省は昨年秋からトランスジェンダーの当事者団体などから意見を聴き、新しい様式例を検討していた。
メーカー側でも、文具大手のコクヨが性別欄を削除した履歴書を発売するといった動きが出ている。
オンライン署名を呼びかけたNPO法人「POSSE(ポッセ)」の佐藤学さんは厚労省の様式例を「一歩前進」と評価した。ただ、性別欄が残ったことについては「履歴書に性別を書くことは、当事者にとって強制的なカミングアウト」と心配する。その情報を複数の採用担当者、入社後も上司ら不特定多数の人が見られる状況があれば、性的少数者だと暴露される「アウティング」になる恐れがあるという。
佐藤さんは「任意でも性別を書くことは当事者には苦痛。書かない場合に、企業から不利益な扱いを受けることも考えられる。性別自体を問わないようにするため、引き続き国や企業に働きかけていきたい」と話した。(岡林佐和、高橋末菜)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル