強権的な組支配で知られる指定暴力団山口組のナンバー2、高山清司若頭(72)が10月18日に出所してからまもなく2カ月。指定暴力団神戸山口組との対立抗争の激化により社会生活への影響が懸念されることから、警察当局は両組織を年明けにも「特定抗争指定暴力団」に指定し規制を強化する構えだ。一方、攻勢をかける山口組による神戸山口組の切り崩しが進んでいるとみられ、今後は組社会の勢力図が大きく塗り変わる可能性もある。
■自動小銃で十数発…
兵庫県尼崎市の阪神電鉄尼崎駅近くの繁華街。銃声が響いたのは、買い物客や帰宅途中の人々が行き交う11月27日午後5時過ぎのことだった。神戸山口組の古川恵一幹部(59)が元山口組系幹部の朝比奈久徳容疑者(52)=殺人容疑で再逮捕=に襲撃され、米軍も使う「M16」系とみられる自動小銃の実弾十数発を浴びて即死した。
捜査関係者によると、恐喝罪で5年半にわたり服役した高山若頭は10月18日の出所後、朝比奈容疑者がかつて所属した組を含む複数の傘下組長らと面談し、活動姿勢を叱責したとされる。こうした動きに前後する形で、構成員数で勝る山口組側から神戸山口組側への襲撃が全国で相次いだ。
熊本市内では11月18日、組幹部本人が山口組系組員に刃物で切りつけられ、翌19日には札幌市内の別の幹部宅が山口組関係者の車に突入された。
12月以降、神戸山口組の複数の直系組長が周囲に引退を示唆したとの情報もあり、捜査関係者は「山口組による威嚇が直系組長らの動きに影響しているとみられ、このまま神戸山口組の勢力が縮小へ向かう可能性もある」と語る。
■5人集まれば逮捕
組の暴発が地域住民に影響を及ぼす可能性を懸念する警察当局は、両組織を「特定抗争指定暴力団」に指定する準備を進めている。すでに兵庫、大阪、京都、愛知、三重、岐阜の6府県の公安委員会は、両組織に対して、20日から指定に向けた意見聴取を始めると通知した。
指定されれば、組の主要拠点や襲撃を受けた施設の所在地に「警戒区域」が設定され、区域内では組員が5人以上集まっただけで逮捕が可能になる。
警察関係者は「外で組員が一緒にメシを食うこともできない」と規制の効果を説明。武田良太国家公安委員長も一連の事件後の記者会見で、「全容解明に向けた捜査や必要な警戒を行う」と強調している。
効果は実証済みだ。平成24年12月、抗争を激化させていた九州の道仁会と九州誠道会(現浪川会)に対し福岡、佐賀、長崎、熊本の4県の公安委員会が全国で初めて指定した際は、26年6月に解除されるまでの1年半にわたり抗争事件は発生しなかった。
一方で慎重な意見もある。ある捜査関係者は「6府県に警戒区域が設定されても、他の地域に活動の場を移す可能性がある」として、「実際に指定してみないとどれほどの効果があるのか分からないのが現状だ」と指摘した。
■ヒットマンは組長
古川幹部の射殺事件から6日後の12月3日、兵庫県警は殺人未遂などの容疑で神戸山口組直系「山健組」組長の中田浩司容疑者(60)を逮捕した。中田容疑者が8月、神戸市内で山口組系組員を銃撃し重傷を負わせた疑いがあるという。
かつて山口組の5代目組長を出した組織のトップが「ヒットマン」として逮捕されたことに、組社会には衝撃が走った。
中田容疑者は昨年5月に神戸山口組の井上邦雄組長(71)から山健組トップの座を譲り受ける形で若頭から組長に昇格した。この際、山健組では内部対立が先鋭化。複数の傘下組織が山口組側の切り崩し工作で組を離脱したとされ、トップの社会不在が長期間続けば、さらなる混乱を招く可能性もある。
神戸山口組の関係者は、419年前の関ケ原の戦いで、西軍の戦況不利と見るや親戚筋の総大将、毛利輝元らを裏切り、豊臣家滅亡の遠因を作った武将になぞらえ、「組の誰がいつ小早川秀秋になるか分からない状況だ」と話した。
特定抗争指定暴力団 暴力団対策法に基づいて、警察当局が抗争状態にあって危険と判断した暴力団を、関係する都道府県の公安委員会が意見聴取の機会を設けた上で指定する。あらかじめ設定された「警戒区域」内では5人以上で集まることや、事務所の使用、対立組員へのつきまといなどが禁止される。違反すれば直ちに逮捕される。期限は3カ月以内だが延長も可能。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース