岐阜県御嵩町の庁舎を移転し新築する計画を巡り、庁舎の位置を変える条例制定について町議会の同意を得られる見込みがなく、事業の実現性がないのに関連予算を支出するのは違法だとして、住民6人が19日、町を相手取り、公金支出の差し止めを求める訴訟を岐阜地裁に起こした。
地方自治法は、庁舎の位置を変える条例制定には出席議員の「3分の2以上」の同意(特別多数議決)が必要と定めている。
訴状によると、町議11人のうち4人以上が新庁舎整備事業に反対しており、条例制定の見込みがないという。また、移転予定地が農地であることを巡っても、町は農地法に基づき県に対して農地転用を申請。しかし、県は確実な条例制定が見込めないことを理由に許可をしていないという。その上で、実現できない事業に公金を支出するのは無駄で、行政の裁量権を逸脱し、違法だと主張している。
原告らは、公金支出の差し止めを求め住民監査請求をした。昨年12月に棄却されたことから、それを不服として提訴した。
この問題は町議会でも議論になっている。渡辺公夫町長は昨年9月の町議会一般質問の答弁で、「すでに事業費のうち6億5千万円を使った。計画をやめれば町民の損害になる」と述べ、「過半数の賛成は得ており、賛成の7議員と相談しながら計画を進める」との見解を示していた。
原告らは昨年時点の概算事業費が約78億円で、町の予算規模に比べて過大であることのほか、予定地が川に近く、最高2メートルの浸水想定がある土地で、「安心・安全な庁舎」とする町の基本方針に反するとも訴えている。
提訴について、町は「訴状が届いていないので、コメントは差し控える」としている。(保坂知晃 本井宏人)
岐阜県御嵩町の新庁舎整備事業を巡る経緯
1979年 現庁舎が完成
2012年 震度6弱の地震で現庁舎が倒壊の危険があると判明
15年8月 町庁舎整備検討委員会を設置
16年2月 検討委が「災害時に行政機能を発揮できる庁舎の整備」を答申
6月 町長が現庁舎の耐震改修はせず、現地か移転して建て替えると表明
9月 町議会に新庁舎整備特別委員会を設置
12月 特別委の報告を受け、町が移転し新築を決定
18年7月 新庁舎建設基本構想を策定
21年6月 基本設計が完了
10月 農地法に基づく農地転用を県に申請
22年5月 実施設計が完了
8月 反対町議4人が「新庁舎移転の白紙撤回を求める声明」を公表
10月 住民らが公金支出差し止めなどを求め監査請求
12月 町監査委員が請求棄却
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル