東京都文京区の江戸川公園そばの神田川で20日午後、猫が護岸に取り残された。消防も出動して大勢の人たちが見守るなか、通りかかった若者の機転が猫を救い出した。
ウーバーイーツの配達を終えた帰り道、自転車を走らせていた水谷俊貴さん(21)=東京都千代田区=は、消防車と人だかりに遭遇した。
よく晴れた土曜日の午後1時半すぎ。公園で遊んでいた家族連れや通行人たち数十人はみな、柵に寄りかかって川の中を心配そうにのぞき込んでいる。目を向けると、10メートルほど下の水面から数十センチ上の護岸のわずかに生える木の上で、1匹の茶色い小さな猫がぽつんと取り残されていた。護岸はほぼ垂直ではい上がれないようだ。
集まった10人ほどの消防隊員が、長いはしごを準備していた。猫は水に弱く、体が冷えやすいと聞いたことがあった。不安な気持ちで、救出活動を見守った。
隊員たちは猫がいる場所の真上に近い位置からはしごをゆっくりと水面近くまで下ろした。すると、猫ははしごに飛び移ることに成功した。
集まった人たちが、祈るように作業を見つめる。隊員の1人が慎重にはしごを下りていく。しかし、隊員の足が猫のいるところまでたどり着くと、猫はおびえてしまったのか、逃げるように跳び上がり、川に落ちてしまった。
沈まないように必死で川を泳ぎ、何度か岸壁にはい上がろうとするが、すぐに落ちて再び流される猫。数十メートル下流まで流されたところには、ちょうど人が下りていくことのできる手すり状のはしごがあった。猫はそれにしがみつき、なんとかはい上がった。
この瞬間、なんとかしたいと思いながら作業を20分ほど見守っていた水谷さんは、「今なら救出活動の邪魔にならない」ととっさに判断。柵を乗り越えて手すり状のはしごをするすると下りていった。高校時代の3年間は野球に打ち込み、体力には自信があった。
素早く猫のいる水面近くまでたどりつくと、川底に両足をひたしながら猫を「優しく、優しく」と注意しながら抱きかかえようとした。だが、警戒心が強い猫は逃げるように動き回り、「かなり焦った」。
左腕の内側を猫にひっかかれ、数本の傷がついた。それでも、再び猫を冷たい水の中に落とすことは何としても避けたかった。「何が何でも離さないように強く抱きしめました」。次第におとなしくなった猫を抱えながら、片手ではしごを上った。
無事に猫をおろすと、集まった人たちから拍手と歓声が上がった。通りかかった女性からハンカチを手渡された。「足元も水につかってぬれていたので、ありがたかったです。行動を起こして良かったです」と照れくさそうに笑った。(川村貴大)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル