川崎市多摩区でスクールバスを待つ私立カリタス小学校の児童ら20人が殺傷された事件は28日で発生から3カ月。直後に自殺した岩崎隆一容疑者は、長く引きこもり生活を送っていたとみられ、犯行につながる直接的な背景はいまだに見えてこない。同小は、児童の心に寄り添いながらも、日常を取り戻そうと中止していたスクールバスの運行を再開する。一方、事件現場には現在も人々が手を合わせに訪れており、近所に住む男性は「事件を忘れてはならない」と絞り出すように思いを口にした。
小田急線読売ランド前駅の北側に広がる同市麻生区多摩美地区。山を切り開いて造成されたという急坂が続く住宅街の頂上付近に、岩崎容疑者の伯父夫婦の自宅はある。幼い頃に両親が離婚し、伯父夫妻に引き取られた岩崎容疑者は事件前、築60年近くが経過したこの家の一室で、夫婦とも接触を避け、ほぼ引きこもりの状態で生活していたとみられている。
■わずか十数秒の間に
近所の主婦は「事件があってからご夫婦のことは一度も見かけていない」と話す。閉じられた門扉の向こうに見える庭は、夏の日差しを受けた雑草に覆われ、神奈川県警の捜査員や報道関係者が殺到した頃とは様子を異にしていた。
あの日の朝、岩崎容疑者はこの家から読売ランド前駅に向かう坂を下っていった。電車を降りた登戸駅近くの同市多摩区登戸新町の路上でリュックサックの中から用意した包丁を取り出し、児童らを襲撃したのは、それから間もなくの午前7時40分ごろ。わずか十数秒の間に20人を殺傷し、直後に自ら首を刺して自殺した。
岩崎容疑者を凶行に走らせたものは何だったのか。伯父夫婦は岩崎容疑者の将来を案じ、相談した市のアドバイスに従って今年1月、2回にわたり手紙を渡している。この際、岩崎容疑者は「ちゃんと生活している」などと反発。前年からは、家に高齢の伯父夫婦の訪問介護のため、ヘルパーが出入りするようになっており、市の関係者は事件直後、「伯父らが訪問看護を受け始めたことで『(自分の)この生活は長く続かない』という現実に気づいてしまったのかもしれない」と話していた。
■カウンセラー2人が
ただ、捜査関係者によると、事件につながる直接的な動機はいまだに解明されていない。家宅捜索は2度実施され、岩崎容疑者が一時期、店員として勤務していたという東京都町田市内のマージャン店の関係者など、わずかでも接点のあった人物に聞き込みも行ったが「あの男の人間性、人となりは全く見えてこなかった」というのだ。
そうしたなか、同小では少しでも早く児童の日常を取り戻そうという試みが続けられてきた。同小を運営するカリタス学園の高松広明事務局長は、夏休み中も週に1度はカウンセラー2人態勢で児童らから相談を受け付ける機会を設けてきたと明かし、「事件を受けて、数人の児童が登校できなくなっている。2学期になって、その子たちがやってきてくれることを心から願っている」と話した。
事件以降、スクールバスの代わりに市から有償提供を受けたバスに児童を乗せてきたが、始業式が始まる9月2日以降は運行を復活させるという。
「児童らの心理状態に配慮し、事件時に運行していたバスも含めて内装は全て取り換えた。そのうえで登戸と向ケ丘遊園の両駅と小学校間を運行させる」(高松氏)という。
■多くの人の目がある
同市多摩区では、区役所が使用する自動車に「防犯パトロール中」と書かれたステッカーを貼るなどの対策を実施。担当者は「犯罪予備軍に『多くの人の目がある』と思わせることで、事件を抑止していきたい」としている。
亡くなった栗林華子さんと、小山智史さんの初盆となった今月中旬、現場には手を合わせる人々の姿が見られた。「本当に何も悪くない人たちが理不尽に…」と、岩崎容疑者への憤りを口にしたのは、夏休みを利用して千葉県船橋市からやって来た50代の男性会社員。事件発生以来、心を痛め、「もっと早くに来たかった」と目を伏せた。
近所に住む買い物帰りの男性は「子供たちの心情を考えれば、できるだけ早く日常に戻してあげることが大事だと思う」としながらも、こう付け加えた。
「ただ、決して忘れてはならないことなので」。その場を通りかかるたびにそうしているのか、男性は手にした日用品を一度、地面に置いて目を閉じ、静かに合掌した。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース