10月10日、朝日地球会議のセッションに登壇する歌舞伎俳優の市川團十郎さん(45)は10年間も植林活動に取り組んでいる。そのことを知っている人は、まだそう多くはないだろう。
なぜ、植林なのか。きっかけは2017年に34歳で亡くなった妻、小林麻央さんの存在だった。
10年に結婚してすぐの頃。歌舞伎の巡業で各地の宿泊施設に泊まると、環境への配慮から「タオルは一枚まで」と目にする機会が増えた。「何の役に立つのか?」と疑問だったが、過剰な洗剤の使用は水質汚染、プラスチックは焼却時に温暖化の原因となる二酸化炭素を出す問題につながっていると後々知った。
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市川團十郎さんとジェームズ・ミニーさん、平田仁子さんが登壇する「朝日地球会議2023」は10月9~12日、リアルとオンラインのハイブリッドで開催します。9~11日は東京・有楽町朝日ホールに読者の皆様を招待し、同時にライブ配信。12日はオンライン配信のみです。参加費は無料。事前登録が必要です。
熱波や森林火災など異常気象、災害が目立つようになり、團十郎さんは14年に自身のブログで「環境問題についてできることはないか」と書き込んだ。これに「森をつくったらどうですか」とコメントが付いた。「森をつくるって悪くない」と思い、麻央さんに相談すると、かつてテレビ番組の企画で共演した故宮脇昭・横浜国立大学名誉教授を紹介され、植樹プロジェクト「ABMORI(エビモリ)」を14年から長野県志賀高原で始めた。
「温暖化で、次の世代で大きな問題が起きる。子どもたちが大人になる頃には、台風の風速がもっと大きくなるかもしれない」。團十郎さんは21年の取材で危機感をあらわにし、植樹の意義について「木々が増えると、(温暖化の原因となる)二酸化炭素を酸素にしてくれる」と強調した。
活動はコロナ禍で中止した20年を除き毎年行い、これまでにミズナラやブナなど7万本超の苗木を植えた。21年に自然保護活動に取り組むNPO法人「Earth&Human」を設立。親交がある元騎手でJRA調教師の福永祐一さん(46)、写真家の篠山紀信さん(82)らが理事となるなど活動の輪が広がる。6月の植樹プロジェクト時には今後の活動について「海に向き合っていきたい」と語り、海岸の美化活動などにも取り組んでいくプランを披露した。
「一人ひとりはどう行動したらいい?」
朝日地球会議への登壇は2回目。6~8月の世界平均気温が過去最高となるなど「地球沸騰化」は悪化の一途。團十郎さんが抱く「では、一人ひとりはどう行動するべきか」という問題意識を掘り下げるべく、今回は長年、フェアトレード(公正な貿易)に取り組む「フェアトレードカンパニー」社長、ジェームズ・ミニーさん(60)と、環境問題の専門家で一般社団法人「クライメート・インテグレート」代表理事の平田仁子さん(53)とともに、「地球に異変 行動したい、でもどうすれば!?」と題して意見を交わす。
「フェアトレードカンパニー」は、国内でのフェアトレードの草分け的存在として知られ、洋服や雑貨などを企画、販売。途上国の立場の弱い人々の労働環境や自然環境にも配慮しながら、生産者が暮らしていける価格で取引する。
ジェームズさんは大手金融機関に勤務する傍ら95年の会社創設に関わり、07年に金融機関を退社後、15年に社長に就いた。
バブル期に来日。ジェームズさんは「ゴミの排出がすごかった。使えるようなテレビやステレオが粗大ゴミに出され、包装は7層あったことも」と振り返る。「日本人は自然を大切にする文化を持つのに、なぜ環境問題に関心が薄いのか。矛盾している」と思った。
90年代、都内や横浜市で行う同社のイベントなどで、人権や環境問題、リサイクル関連の情報を盛り込んだ冊子を1部200円程度で販売。その後、同様の情報は行政が発信するようになり、ジェームズさんは「時代は変わった」とも感じている。
化学繊維でなく自然の素材、中でもオーガニックコットンを使うことで環境への負荷を減らせる。自然素材を用いて、手仕事を生かしたフェアトレードのものづくりをすることで、環境問題と貧困問題の同時解決をめざす。ジェームズさんは、「フェアトレードの産品を手にとって触れてもらい、うれしいと思ってもらいたい。環境問題を考える入り口になればいい」と考える。
平田さんは大卒後に就職した出版社を3年半で辞め、渡米。ワシントンの環境NGOで1年間活動した後に帰国し、NPO法人「気候ネットワーク」の創設スタッフになった。気候変動を市民の力で解決したいと、環境問題一筋だ。
11年の原発事故後に増えた石炭火力発電の計画に反対。企業や政府が情報を出し渋る中、事故後の計画が50基になることを独自に調べ上げた。その後、17基の計画が撤回。一連のキャンペーンが評価され、21年に環境分野のノーベル賞とも言われる「ゴールドマン環境賞」、昨年は英BBCによる「100人の女性」に選ばれた。
政府や産業界などに転換を促すことは容易ではない。欧米に比べ、再生可能エネルギーや電気自動車など気候変動対策で遅れが目立つ。なかなか変わらない現実を目の当たりにすることが多く、「目の前の大きな壁を突き抜け、大きな動きにするヒントがないか、いつも考えている。『行動する2人』と一緒に探れるようなセッションにしたい」と話している。(関根慎一)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル