きょうも傍聴席にいます。
高速道路で白い高級車がいきなり前に割り込み、蛇行運転で進路をふさぐ。運転席の窓から身を乗り出した男が「降りてこい。殺してやる」と怒号し、「ガラケー」をかざした女性と男が高速道路上を歩いて近づく。男は、停車させた車の運転席の男性の顔を何度も殴りつけた――。
ドライブレコーダーに映る光景が衝撃を与えた「常磐道あおり運転」事件。繰り返しテレビで流れた動画が大きな注目を集め、あおり運転そのものを取り締まれるような法改正にもつながった。なぜ、危険な運転を繰り返したのか。強要と傷害の罪で起訴された会社役員の被告(44)が、公判でその心情を語った。
起訴状などによると、被告は昨年8月10日朝、茨城県守谷市の常磐道で、乗用車に対し幅寄せや割り込みなどを繰り返し、恐怖心を与えて停車させた上、運転席の窓越しに男性を殴って1週間の打撲を負わせたとされる。同年7月23日の朝、浜松市の東名高速と愛知県岡崎市の新東名高速で、それぞれ乗用車と大型トラックの前に運転する乗用車を割り込ませ、急ブレーキをかけさせたなどとして、強要罪でも起訴された。
わざと自分の車に… 男の疑念
7月27日、水戸地裁で開かれた初公判。被告は短髪に上下黒いスーツ姿で入廷すると、瞬きを繰り返し、緊張した様子で開廷を待った。裁判長から住所を聞かれたが声が小さく、「もっと大きな声で」と求められた。その後は淡々と質問に答え、何度も反省を口にした。高速道路上に飛び出して他人を殴りつけた姿とは、別人のようだった。
検察側は冒頭陳述で、被告が2006年にも、高速道路上でのトラブルをめぐる事件で略式命令を受けていたことを明らかにした。続けて弁護側は、この前後から精神科に通院し始め、薬を服用して十数年にわたってカウンセリングを受けていたが、事件の前年ごろにやめていたことも明かした。
証拠調べでは、検察官が3事件の被害者の供述調書を読み上げた。
常磐道の事件の被害者は「本気で殺されると思った。車を置いて逃げようかとも考えたが高速上なのでできなかった。停車させられ、後続のトラックに追突されていたら命を落としていたかもしれないと思うと、とにかく許せない」。浜松の事件の被害者は「恐怖しかなかった。死を意識した。危ない運転をする人がいなくなるためにも厳しい処罰を」。愛知の事件の被害者も「止められたら殴られると思って必死で運転した。最も厳しい処罰を下してほしい」と、そろって厳罰を求めた。
証拠調べではさらに、被告が起訴前の精神鑑定で、他人が自分に悪意を持っていると疑う傾向がある「猜疑(さいぎ)性パーソナリティー障害」の診断を受けたことが明らかになった。検察官と弁護人双方が「人を疑いやすい性格が事件の一因になった」と指摘。ただ検察側は「鑑定では、この障害があることが善悪の判断に影響を与えることはないとされた」と説明。弁護側もその点は争わないと述べた。
被告人質問ではまず弁護人が、あおり運転をするようになった理由を聞いた。
被告「高速道路の追い越し車線を走っていた時、走行車線の車が急に車線変更をしてきて衝突しそうになり、急ブレーキをかけたことが何度かあった。同じことをされたら嫌な思いをすることを分かってもらいたくて、やるようになった」
弁護人「取り調べでドラレコの…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル