柔和で相手を包み込むような目は、経験のたまものか。岡山県警組織犯罪対策1課の戸部裕之さん(66)は薬物密売ルートの解明に人生をかけ30年余り。警察庁認定の薬物捜査を専門とする「広域技能指導官」は、全国約30万人の警察職員でわずか5人だ。数々の大型事件を手がけた「レジェンド」が3月末、警察人生に幕を下ろす。
薬物の危険性に触れたのは岡山県警に入って数年後。岡山東(現岡山中央)署に少年係の巡査として赴任した頃にさかのぼる。
中高生にシンナーが横行した当時、管内だけで年百数十人が逮捕、補導されていた。まるで魂が抜けたようにシンナーを吸う少年たち。錯乱して屋根から落ち、命を落とした少年もいた。
いったん別の警察署へ出て岡山東署に戻った時、密売所で覚醒剤を買った疑いで30代の男女を逮捕した。2人の子は引き取り手が見つからず、児童養護施設に預けることになった。女は涙を流して過ちを悔やんだ。子どもがふびんで、1人の人間として胸が痛んだ。
末端の客がバケツから漏れる水滴だとすれば、密売人や運び屋はそこに水をあふれさせる水道の蛇口。ここを閉めないと薬物犯罪は撲滅できない――。これが捜査を積み重ねた結論だ。
若い頃には「ブツ燃やされた」失敗も
2004年、県警本部の薬物銃…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル